【イングランド】カペッロの後任にはどんな幸福と災厄が降りかかるのか

  • マーク・バーク●文 text by Mark Burke 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki
  • photo by Getty Images

親善試合オランダ戦で暫定監督を務めたスチュアート・ピアース。試合には2-3で敗れた親善試合オランダ戦で暫定監督を務めたスチュアート・ピアース。試合には2-3で敗れた FA(イングランド・フットボール協会)の広報局長エイドリアン・ベビングトンは、イングランド代表監督についてこう語ったことがある。「これに匹敵する仕事は、政府とBBC、あとは王室くらいだ」。この言葉は、イングランド代表とその監督の仕事の重みをよく表している。

 2月初めにファビオ・カペッロがイングランド代表監督を辞任し、この原稿を書いている時点でまだ後任は決まっていない。代表で最も優れた選手であるウェイン・ルーニーをはじめ、多くの人が次期監督はイングランド人がいいと言っている。イングランドがフットボールの「母国」だという意識がそう言わせるのだろうが、まったく不思議な話だ。イタリア人のカペッロは代表監督として4年間に指揮した42試合のうち67%に勝ち、歴代のどのイングランド人代表監督よりも高い勝率をあげていたのだから。

 イングランド代表監督という仕事は、どこがどう厄介なのか。その仕事をあえて引き受けようという人物には、どんな幸福と災厄が降りかかるのか。そのあたりを考えるには、今が最高のタイミングかもしれない。

 イングランド代表監督の仕事は、この国のフットボール界では指導者が行き着く最も名誉あるポストと思われている。だが、そのわりにはなり手が少ない。矛盾しているように聞こえるが、仕事がうまくいかないときの代表監督にとてつもないプレッシャーがかかることは誰もが知っている。

 私は他国の代表監督を何人か個人的に知っている。彼らが率いているのは、言うなればフットボール的に「まとも」な国だ。まともというのは、代表監督になった人がそこそこ落ち着いて仕事ができる国という意味だ。

 フットボール的に言って、イングランドはまともではない。狂っていると言ってもいい。選手としてプレイするにせよ、監督としてチームを率いるにせよ、世界でイングランドくらいすばらしい国はないが、同じ理由からこれほど厄介な国もない。

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