検索

【Jリーグ】イニエスタはサッカーの本質を教えてくれた 「バルサの天才少年」の記憶を辿ったクラシコの夜 (4ページ目)

  • 戸塚 啓●取材・文 text by Kei Totsuka

【日本人にとって参考になる選手】

 自分がやりたいプレーではなく、チームが勝つためにプレーすることですか、と聞く。アスカルゴルタさんは「もうひとつ加えて」と、人差し指を立てる。

「その試合が魅力的になるようなプレーをする、ということも含まれる。たとえば、ここでゴールを決めてほしいという場面で決める、といったことがそれにあたる。イニエスタはストライカーではないけれど、そういうプレーもできるようになるはずだ」

 日本人にとっても大いに参考になる選手だよ、とアスカルゴルタさんは言った。

 その言葉どおりに、Jリーガーとなった彼は、同じピッチに立つ選手の模範となった。ヴィッセル神戸のチームメイトだけでなく、対戦相手の選手にも多くのインスピレーションや気づきを与えてくれた。

 Jリーグ時代を振り返ると、個人的には、試合前のウォーミングアップが印象深い。

 パス&コントロールでも、シュート練習でも、イニエスタはほぼノーミスである。止める、蹴る、の技術が高いのは当然だが、シュートがうまかった。ゴールの四隅を的確にとらえていた。それぐらいの技術があるから、ワールドカップ決勝のような重圧のかかる場面で、スペインを世界チャンピオンへ導くゴールを決めることができたのだろう。

 試合中では、味方のパスが乱れたあとのリアクションが、まあとにかく絶妙だった。イニエスタが想定しているところにボールが来なかったから、足を無理に伸ばしたり、重心がどちらかに傾いたり、視野を十分に確保できなかったりしている。相手側からすれば、ボールを奪う好機だ。

 しかしここで、彼は巧みにスクリーンをして、あるいは相手のパワーを利用して、さらには瞬間的なアイデアで、ボールを失わないのである。気が急いた相手のファウルを誘うのだ。

 フットボーラーのアスリート化が進んだ現代では、イニエスタのようなタイプは生きにくいかもしれない。仮にそうだとしても、彼が見せる「試合が求めるプレー」は、チームメイトに、対戦相手に、観衆に、支持されるに違いない。サッカーという競技の本質を、教えてくれると思うのだ。

著者プロフィール

  • 戸塚 啓

    戸塚 啓 (とつか・けい)

    スポーツライター。 1968年生まれ、神奈川県出身。法政大学法学部卒。サッカー専誌記者を経てフリーに。サッカーワールドカップは1998年より7大会連続取材。サッカーJ2大宮アルディージャオフィシャルライター、ラグビーリーグワン東芝ブレイブルーパス東京契約ライター。近著に『JFAの挑戦-コロナと戦う日本サッカー』(小学館)

【写真】あの人は今〜1994年Jリーグ得点王「オッツェ」今昔フォトギャラリー

4 / 4

キーワード

このページのトップに戻る