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祖母井秀隆が語る日本サッカーに本当に必要なこと「点数化してしまう協会の指導者養成は好きじゃない」 (3ページ目)

  • 木村元彦●取材・文 text by Kimura Yukihiko

 海外をルーツに持つ若者の支援を祖母井は人知れず行なってきた。筆者が知る限りでも牛久の東日本入国管理センターに収容されているイラン人の面会に行ったり、日本に政治亡命して難民認定された元ミャンマー代表GKのピエ・リアン・アウンに練習参加の場を提供している。また難民二世の産業能率大学のGKカウンゼン・マラの相談にも乗って来た(マラは2024年に町田ゼルビアに入団を決めている)。

 日本国内に暮らすマイノリティに対する関心も幅広く、難民申請を続けるふたりのクルド人青年を描いたドキュメンタリー映画「東京クルド」(日向史有監督)の上映会を大学で開いたりしてきた。日本リーグを形成した大企業の会社員生活しか知らないサッカー関係者と異なり、祖母井はケルン体育大学時代にトルコ人と港湾労働者として留学生活を乗り切った経験がある。不可視にされて迫害されている人々を知り、思いやるその知性と知見が、紛争で引き裂かれたユーゴスラビアの民族を融和させたオシムの信頼を勝ちえたことは想像に難くない。

「子どもは一人ひとりが違います。その子たちの未来を考えていこうと。うちのクラブはひとことで言えば、選択肢を与えているんです。こういう今の社会の中でただ強くなるというだけではなく、こういう価値観でサッカーをやっていこうとしています。それが面白いと思えば来て下さい。来るものは拒まず。だからセレクションもやりません」

 今は新中学1年生になる6年生相手に体験会を開いているという。

「将来はオシムカップをやりたいですね。人間と自然を大事にすることを土台として、一切の排除をしないオシムカップを。(オシムの妻の)アシマさんに連絡をしてビジョンについて承諾も得ています。千葉でやりますよ」

■Profile
祖母井秀隆(うばがいひでたか)
1951年生まれ。1995年よりジェフユナイテッド市原の育成部長、1997年から2006年までGMを務めた。2007年より、フランス・リーグ2部のグルノーブル・フット38のGMに就任。欧州クラブでGMを務めた初めての日本人となった。その後、2010年から2014年まで京都サンガF.C.のGMを務め、2016年より淑徳大学客員教授、サッカー部アドバイザーに就任した。

著者プロフィール

  • 木村元彦

    木村元彦 (きむら・ゆきひこ)

    ジャーナリスト。ノンフィクションライター。愛知県出身。アジア、東欧などの民族問題を中心に取材・執筆活動を展開。『オシムの言葉』(集英社)は2005年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞し、40万部のベストセラーになった。ほかに『争うは本意ならねど』(集英社)、『徳は孤ならず』(小学館)など著書多数。ランコ・ポポヴィッチの半生を描いた『コソボ 苦闘する親米国家』(集英社インターナショナル)が2023年1月26日に刊行された。

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