久保建英がスペインで飛躍できた素養とは? 「久保クンから久保になった」FC東京時代 (3ページ目)
【戦局を打開できる知性と胆力】
しかし図太いメンタルが、バラバラだった才能のかけらをひとつに結びつけたのである。16歳だった久保が、トップチームのクラブハウスに歌を歌いながら入ってきたのは有名な逸話である。日本代表歴のある選手もいたが、まるで物怖じしていなかった。いわゆるビッグマウス型ではなく、明るい剛胆さがあったのである。それは過去のJリーガーでも、三浦知良ぐらいしか見当たらない。
「ディフェンダーだった立場からタケの長所を語るなら、とにかく自分のプレーに確信がある点だろう。これは守る側にとっては脅威だよ。同時にタケはどのような状況でもプレーをキャンセルし、ベストのプレーを選べる。常に自分主導で精神的に優位に立ち、コンビネーションを使い、相手に次のアクションを読ませないんだ」
冒頭のゴリスの証言である。
久保はまず、個人の力に優れている。今やひとりでは止められない。多くの久保番ディフェンスが途中交代を余儀なくされている。プレーヤーとしてのキャラクターはFC東京時代と変わっていない。しかし、彼が本当に優れているのは、相手が対応した後、味方とのコンビネーションを用い、戦局を打開できる知性と胆力にある。自分の技術と味方をつなぎ合わせ、巨大な力を生み出せるのだ。
剛胆さによる変幻自在が、欧州のトップレベルを舞台に研ぎ澄まされている。まるで漫画の主人公のように、打ちのめされるほどに成長するのだ。
「誰かが何とかしないといけない展開で、その誰かが自分だったのが嬉しい」
件の磐田戦で、お立ち台に上がった久保は飄々と言ってのけたが、泰然と勝利をもたらす姿は今にも重なる。
著者プロフィール
小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。
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