「これはまずい」「観客のヤジが的確」「非常にやりやすかった」Jリーグの元審判・村上伸次が今でも忘れられない3試合 (2ページ目)

  • 篠 幸彦●取材・文 text by Shino Yukihiko

【初めての無観客試合は声が丸聞こえ】

2020年7月4日/J1第2節 
清水エスパルス 1-2 名古屋グランパス

 2020年の第2節、清水エスパルス対名古屋グランパスは、コロナ禍による中断明け最初の試合です。私自身、無観客試合というのが初めてでした。

 レフェリーとして駆け出しの頃に担当した県リーグや地域リーグの試合の時でも、観客は必ずいたわけです。それが運営スタッフの方だけのがらんとした観客席というのは異様な雰囲気でしたね。選手たちはもちろんですけど、レフェリーの私も観客がいない寂しさをすごく感じました。

 試合自体はすごく淡々と進んだ記憶があります。観客がいないことで、選手たちもいつものようなテンションには上がらない印象でした。第2節ですけど、時期はもう7月で、給水は今までのようにボトルを共有できないし、これまでとは様々な面で違っていて、サッカーになかなか集中できない環境だったと思います。

 そんななかで試合が始まってすぐにびっくりしたのが、選手の声がよく聞こえることですね。普段であれば私の耳には届いていなかったような、文句を言っている声までも聞こえすぎていました。

 それですぐに「これはまずいな」と思いました。そう思って抗議してきた選手に集音マイクを指差してこう言ったんです。「全部聞こえているよ、みんなに」と。選手や監督、スタッフの声とか、あと私たちレフェリーのコミュニケーションシステムでの会話などが、中継に全部拾われていて筒抜け状態でしたよね。

 それがピッチにいる私にもわかるレベルだったので「もう少し言い方には気をつけたほうがいいよ」と言ったんです。それから選手たちもちょっと丁寧な口調になりましたよね。「おい! どこ見て......いるんですか」みたいなちょっと語尾が面白い感じになっていました(笑)。

 結果は名古屋が2-1で勝ったんですけど、清水が先制して、名古屋は前半32分に相馬勇紀選手のゴールで同点、それからオウンゴールで逆転して、相馬選手は点を取ってから気持ちも昂ってノリノリだったんですよ。

 それで後半アディショナルタイム6分です。名古屋が攻めていてファールを受けたんですけど、私はプレーが続いていたのでアドバンテージをかけて続行させたんです。そのボールが相馬選手のところへ渡ったけど、清水の選手に取られたんですよね。そこで相馬選手のファールを取ったんです。

 そうしたら間髪入れずに彼が異議をしめしてきてイエローカード。その声も集音マイクに拾われちゃっていました。それが2枚目のイエローだったので退場になったんです。

 その翌週にも名古屋の試合を担当して、その時に相馬選手が「この前は言いすぎました。すみません」と言いに来てくれて、私も「仕事でやっているから勘弁してね」と。そんな裏のエピソードも印象に残る試合でしたね。

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