サガン鳥栖指揮官「僕は運という言葉は使わない」 湘南戦大勝&上位浮上は「必然」だった
昨年10月、サガン鳥栖・川井健太監督のインタビューで、最後に訊いた答えが印象に残っている。
――最後になりますが、名将は運の強さという超常的なものも持っている気がします。
「それはあると思います。でも、僕は『運』という表現は使わないです。監督は選手に託すしかないじゃないですか? それで、ボール1個分で勝っていたとかを、運と呼ぶんでしょうけど、その運さえも僕は凌駕していきたい。たとえば『相手GKがよかった』という試合で、相手GKは変えられないけど、自分たちがもう1個分、上に蹴る技術を身につけていたら、勝てた可能性は高い。ボール1個分は改善できるんです」
川井監督は、抑揚はないのに熱だけはこもった口調で言った。
彼が率いるチームは、「運を呼び込む」ディテールにこだわったトレーニングを積み重ねてきた。日々のたゆまぬ鍛錬とは安易な表現だが、細部にこだわったトライ&エラーだ。その結果、鳥栖は上位に顔を出してきた。直近のリーグ戦は4勝3分けで順位を8位に上げている。反転攻勢は必然である。
6月24日、平塚。後半戦への折り返しゲームで、鳥栖は敵地に乗り込み、湘南ベルマーレを6-0と完膚なきまでに叩きのめしている。ホーム開幕戦での1-5の大敗の借りを返した形だ。
「6点とって、敵地まで来たサポーターに見せよう!」
チーム全体が、そんな気運で盛り上がっていた。それだけの自信もあった。積み上げてきたものが礎にあるのだ。
「(川井)健太さんのチームでは、試合に出たい、という気持ちになります。試合で迷いがない」
この日、ハットトリックを達成した小野裕二は語っている。力まずゴールへの矢印を向けられているのは、チームの仕組みが正しく働いているからだろう。30歳にして、キャリアハイだ。
湘南ベルマーレ戦でハットトリックの活躍を見せた小野裕二(サガン鳥栖)この記事に関連する写真を見る 先制点のシーンは、敵陣で相手をはめ込むとパスコースを封じてミスを誘い、奪ったボールが間髪入れずに小野の足元に入り、反転からシュートを決めた。2点目もポジション的優位をとった守備で相手にボールを下げさせた後、無理な横パスを小野がカットし、カウンターからのこぼれ球を右足インサイドボレー。3点目も、敵の迷いが丸出しになったパスを原田亘が奪い、長沼洋一がエリア内に侵入してPKとなり、小野が冷静に沈めた。
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プロフィール
小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。