宮市亮「プロ選手を続けてよかった」 10カ月ぶりの復活で、愛されていることが伝わってきたシーンがあった

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Kyodo news

 5月28日、日産スタジアム。Jリーグ王者、横浜F・マリノスはアビスパ福岡をホームに迎え、好調のアンデルソン・ロペスが前半に2発を叩き込み、2-0と完勝を収めている。

「実力差があったと言わざるを得ない」

 試合後は福岡の監督も選手も、同じように横浜FMの強さに敬意を表していた。最大限の強度を持って挑んだが、それを回避する技術の精度を見せつけられ、翻弄され続けた。要所で、個の力の差も際立った。

 後半に入っても、横浜FMは福岡の攻撃を軽くいなした。プレスを回避し、サイドや中盤にポイントを作った。

「相手が食いついてきても、はがせる力はあるので、相当、消耗するでしょうね。これから夏場になって、体力的に厳しくなるほど、強さを出せるんじゃないかと」(横浜FM/水沼宏太)

 横浜FMの盤石な勝利だった。首位、ヴィッセル神戸とは勝ち点差3のまま、ロックオンした。逆転に向け、虎視眈々だ。だがこの日の主役は、勝敗や順位とはそれほど関係ない選手だった。
 
アビスパ福岡戦の後半33分からピッチに立った宮市亮(横浜F・マリノス)アビスパ福岡戦の後半33分からピッチに立った宮市亮(横浜F・マリノス)この記事に関連する写真を見る 試合後のミックスゾーン、ほとんどの選手が行き去ったあとだったが、大勢の記者が居残っていた。目当ては最初から決まっているようだった。

「すごい!」

 取材エリアに入ってきた宮市亮はそう声を洩らし、記者の数に驚いていた。昨年7月、10年ぶりに選出された日本代表のE-1選手権・韓国戦で右膝前十字靭帯を痛めて戦列を離れていたが、福岡戦でおよそ300日ぶりにJリーグに戻ってきた(公式戦復帰は5月24日のルヴァン杯・コンサドーレ札幌戦)。

「スタジアムが作り出してくれた雰囲気に圧倒されました。心が震えて、本当に待っていてくれたんだな、という思いがすごく伝わって......。感謝を込めて、ピッチで表現したいという思いで入りました」

 宮市は、差し出されたいくつものレコーダーに向かって話し始めた。その声には張りがあって、肌には艶があった。昂揚した感情が、溢れるように外側へ出ていた。

 かつて左右の膝前十字靭帯を断裂した経験があり、それを乗り越えてきた宮市だが、今回のケガはタイミングも最悪で、まさに悪夢だっただろう。治療、リハビリ、復帰まで半年から1年近くかかる重傷。本来のプレーを取り戻せる保証もない。「牢獄に入る感覚」とも言われ、あまりに残酷な試練だった。

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著者プロフィール

  • 小宮良之

    小宮良之 (こみやよしゆき)

    スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。

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