初の2桁得点でサガン鳥栖へ移籍。富樫敬真が見つけた「自分らしさ」と、捨てられない「日本代表への思い」
2022年10月16日、仙台。ロアッソ熊本とのホーム最終戦だった。前半4分、ベガルタ仙台のFW富樫敬真(29歳)は味方と阿吽の呼吸を感じ、自然と体を動かしていた。スペースを見つけて入ると、パスを呼び込み、コントロールから感覚的に右足を振った。
<踏み込みが浅い>
一瞬、キックが弱くなった気がしたが、シュートコースがよく、GKの手を掠めるようにファーサイドのネットを揺らした。
<この回数を増やしていく。ただ、それだけでいいんだ>
歓喜に沸くチームメイトに囲まれ、ずっこけてもみくちゃにされながら、進むべき道を再確認していた――。
そしてシーズン最終節の敵地でのブラウブリッツ秋田戦。富樫は先発で奮闘したが、チームは引き分け、惜しくも1部昇格は逃している。
「勝つしかない」
彼自身は決死の覚悟で挑み、チームも20本のシュートを浴びせ、全力を尽くした。しかし、この引き分けでベガルタ仙台の最終順位は7位となり、昇格プレーオフ進出はならなかった。
シーズン全体を振り返ってみると、意外なタイミングの監督交代などで後手に回った感は否めない。シーズン終盤、監督交代の混乱などで勝てなかった前後、富樫は先発を外れた。この時期にチームは泥沼に入ってしまった。
仙台で2年目になる富樫は、J1、J2を戦ったことになる。残留戦、昇格戦、その緊張感のなかで、自らと対峙するようになったという。その結果、2022年はキャリアハイとなる2桁得点を記録することになった。リオ五輪世代のFWとして、横浜F・マリノスでのデビュー戦以来、ポテンシャルの高さは注目を浴びてきたが、ようやくその片鱗を見せたと言える。
ベガルタ仙台からサガン鳥栖への移籍が発表された富樫敬真この記事に関連する写真を見る「今シーズンは、めっちゃ自問自答しました」
富樫は噛み締めるように言う。
「朝起きて、練習の前にノートをつけることにしました。自分と向き合う感じで、ポジティブなこともネガティブなことも、人に見られたら恥ずかしいようなことまで。例えば"今のままだと今シーズンでサッカー人生は終わり"という不安や、"他の選手はすでに二桁いっているのに"という焦りとか、自分をさらけ出す感じで。
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