ヴァンフォーレ甲府が天皇杯制覇。J2・18位のチームが奇跡を起こすことができた3つの要因 (3ページ目)

  • 浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki
  • 木鋪虎雄●撮影 photo by Kishiku Torao

 そして最後のポイントは、言うまでもなくGK河田晃兵のPKストップ。PK戦での貴重なセーブはもちろんのこと、スタジアムの空気を変えたという意味では、延長後半のビッグセーブが大きかった。

 1-1のまま迎えた、延長後半116分。試合時間も残りわずかで広島に痛恨のPKを献上した甲府は、もはや万事休したかに思われた。

 しかしその瞬間、「このまま終わらせるわけにはいかない」と河田の気持ちが奮い立ったのは、PKを与えるハンドを犯したのが、甲府在籍20年のMF山本英臣だったからだ。

 甲府の守護神は「やりやがったなと思った」と言って笑い、こう続ける。

「(山本が)一番クラブを支えている選手なのは間違いないので、タイトルを獲らせてあげたいと思っていた。ここまできたら、というのはあった」

 河田は「ギリギリまで(相手のキックを)待って、あとは勘で」自身の右方向へ飛ぶと、広島のキッカー、MF満田誠のPKを見事にセーブ。チームを絶体絶命のピンチから救うとともに、試合の決着をPK戦まで持ち込み、甲府に初の栄冠をもたらすヒーローとなった。

 もしPKを与えたのが山本でなかったら......、物語の結末は、これほど波乱に満ちた劇的なものにはならなかったかもしれない。

 はたして、PK戦最後のキッカー、すなわち、これを決めれば甲府の優勝が決まるという重責を任されたのは、山本だった。

 ハンドの瞬間、「このまま(サッカー選手を)辞めようかなと思った」と山本。だが、最後の最後で巡ってきた大役について問われると、「いつも蹴っているコースに悔いがないように蹴ろうと思った。思いどおりのキックができた」と、落ちついた様子で振り返った。

 チーム最年長の42歳は語る。

「チームとして成長するなかで、自分も成長してきた。そのひとつの恩返しが今日の試合かなと思った」

"ミラクル・ヴァンフォーレ"の物語は、これ以上ないハッピーエンドで完結した。

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