槙野智章に涙は似合わない。新天地ヴィッセルではエンターテイナーとしても「浦和でできなかったことを実現できる」
Jリーグ2022開幕特集
新天地に賭ける男たち(2)
槙野智章(ヴィッセル神戸)インタビュー@前編
10年間在籍した浦和レッズから契約満了を告げられてからというもの、槙野智章は毎日のように涙を流したという。
「契約満了と言われると思ってなかったし、このまま浦和で引退するだろうなと思っていました。年齢を考えても、キャリアの終わりに差しかかっているわけで、自分はここで最後までやりきって、引退すると考えていました。
だから、契約満了を知らされた時は、本当に頭が真っ白になりましたし、そこから1カ月くらいは毎日のように泣いていましたね。練習場にいる時はまだよかったですけど、クルマの運転中とかに『あと何回、この道を通えるのか』と考えてしまったり......。当たり前だった日常が失われてしまうと思うと、本当に悲しかったですよ」
ポジティブを地で行く男にとっては、珍しい感情である。
10年間プレーした浦和レッズを離れた槙野智章この記事に関連する写真を見る「前向きにいろんなことを考えましたけど、なかなか切り替えられなかったですね。最初の1、2週間くらいは、もうサッカーを辞めようとも考えていましたよ。それくらいショックな出来事でした」
ただ、槙野の精神を保ったのは、やはりサッカーである。
「まだリーグ戦は続いていましたし、天皇杯も残されていたので、どうにか気持ちを整理して、ほかの選手やスタッフに(気持ちを)引きずっている姿を見せないようにはしていました」
心では泣いていたものの、槙野はこれまでどおりにムードメーカー役を貫いた。
先頭を走り、声を出し、チームを盛り立てていく。そうした姿勢が奇跡を呼び込んだのだろう。2021年12月19日、槙野は浦和での最後の試合となった天皇杯決勝で、チームにタイトルをもたらす値千金の決勝ゴールを奪ってみせるのだ。
「サッカーを辞めようと思っていたなかで、強化の方や現場のスタッフに、これからもプレーしている姿を見たいと言われた時に、まだプロサッカー選手としてあり続けなければいけないと決意しました。
残された時間のなかで、このクラブに何か落とし込めることがあるんじゃないか。後輩たちに伝えることがあるんじゃないか。浦和を背負う責任というものを、プレーと言動で見せなければいけない。そういう思考になってから、前を向くことができましたし、それが最後の試合でああいう結果につながったのかなと思います」
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