くじ引きでメンバー決定から「俺がやる」に変貌。青森山田から1点を奪った阪南大高に見る今時の高校サッカーのリアル (3ページ目)

  • 森田将義●取材・文 text by Morita Masayoshi
  • 松岡健三郎●撮影 photo by Matsuoka Kenzaburo

【FW鈴木章斗が大会7得点】

 結果的に全国大会は悔しい結果に終わったが、多くの選手がうまい選手から、怖い選手へと変貌を遂げたのは事実だ。なかでも、一番の成長曲線を描いたのは、湘南ベルマーレへの加入が決まっている鈴木で間違いない。

 これまでの阪南大高にはいなかった「いい意味で我が強い」(濱田監督)性格の持ち主。中学時代から評価されていたキープ力を活かすため、入学1年目はサイドハーフとして起用されていたが、2年生の途中からはそうしたストライカーに適した性格と10cm近く伸びた身長を買われ(現在178cm)、最前線へとコンバートされた。

 最終学年に入ってからの活躍は目覚ましい。もともとあったボールを奪われない能力に加え、濱田監督は河田の高校時代と同じく、胸トラップを意識させた。本来ならヘディングするような高さのボールを胸で収めた際に、競る相手がパワフルなDFならファールがもらえる。もし寄せてこないなら、そのまま前を向いてシュートまで持ち込めばいい。「フィジカル系のFWには、ヘディングはもったいない。普通の選手では考えられないようなプレーをするのが、FWには必要」(濱田監督)と考えたからだ。

 規格外のFWが持つ"空中で止まっている"と表現したくなるようなプレーを身につけてからは、ゴールのバリエーションが増え、高校生レベルで彼を止めるのは容易ではなくなった。今回の選手権でも活躍ぶりは群を抜いており、初戦では1ゴール。2回戦では前半のうちにハットトリックを達成すると、最終的には5得点をマークした。3回戦の青森山田戦で一矢報いたのも彼で、プロ入り前の名刺代わりとなったのは間違いない。

 今年の阪南大高は選手が殻を破ったことでチームも殻を破り、新たな歴史の一歩を踏み出した。選手権で刻んだこの一歩の価値は計り知れない。今回の経験がベスト8以上のチームとなっていくための基準となっていく。この先へと進む日が必ず来るはずだ。

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