「おまえ、今、この時のように泣けるか」。恩師の言葉から生まれた、梅崎司の覚悟と自信 (4ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by 長田洋平/アフロスポーツ

 その代表チームは2005年ワールドユース・オランダ大会、2007年U-20W杯カナダ大会に出場した2つの世代の選手で構成されていた。梅崎はカナダ大会に出場した世代で、彼らは突き抜けた明るさから「調子乗り世代」と呼ばれ、小野伸二や稲本潤一、遠藤保仁らの「黄金世代」のように注目された。

「調子乗り世代と言われて注目されましたけど、その中心は森島(康仁)、槙野(智章)、柏木(陽介)、安田(理大)たちで僕はそっちのほうには行っていない感じでした(笑)。一つ学年が上だったので、調子乗り世代を見守りつつ、たまにパフォーマンスに参加するみたいな立ち位置でしたね」

 梅崎のいうパフォーマンスとはゴールパフォーマンスのことだ。ゴールを決めた後、この時代に当時流行っていた「ビリーズブートキャンプ」のトレーニングの真似をしたり、侍が抜刀するシーンや相撲、ドラゴンボールのかめはめ波と多様なゴールパフォーマンスで試合を盛り上げた。チームは、梅崎曰く「U-18 からほとんど変わっていなくて積み重ねて強くなっていった」ということで地力があった。U-20W杯はグループリーグでは下馬評を覆して2勝1分けでトップ通過を果たし、ベスト16でチェコと対戦した。2点リードするも追いつかれ、最後はPK戦で屈するのだが、梅崎はこのチームで主力としてプレーした。

「U-20W杯ではチェコに負けたのはすごく寂しかった。もっと上にいってスペインやアルゼンチンと戦いたかった。でも、この大会を通して地道にやっていくこと、夢を持つことの大切さを学びましたし、世界を肌で感じて五輪やA代表につなげていくんだという気持ちになりました」

 梅崎は残念ながら北京五輪を戦う日本代表に届かなかった。

 今回の東京五輪では湘南からU-24日本代表のメンバー入りを果たした選手がいる。GKの谷晃生だ。まだ、20歳と若いGKだが、梅崎の目から見た谷はどんな選手なのだろうか。

「若くて、サイズもあるし、あれだけの安心感とダイナミックさを兼ね備えたGKは、周作(西川・浦和)以来というか、なかなかいないと思います。五輪では日本の盾になってくれると思うので、楽しみですね」

 谷が大舞台で活躍し、成長すればチームにとって大きなプラスになる。メキシコ五輪以来53年ぶりとなるメダルへの期待が膨らむばかりだ。

 東京五輪が終われば、リーグ戦が再び始まる。

 梅崎は、大分でリスタートを切ることになる。前半戦、湘南では試合に絡めなかったが、7月に行なわれた天皇杯3回戦のヴァンラーレ八戸戦でゴールを決めるなどコンディションが上って来ており、「調子はかなりいい」という。大分では、中断明けからチームで自分らしさを発揮していくだろう。そうして自らの価値を高めていくことで、大好きなサッカーをより長く続けていく道が開けていく。

「引退のことも考えたりしますし、僕自身もキャリアの終盤に差し掛かっているのはわかっています。ただ、今年、湘南ではリーグ戦に絡めていなかったので、このままで終われないという気持ちが強い。自分に手応えを感じていますし、日本サッカー界にまだ自分がいるんだ。まだやれるんだというのを見せていきたい」

 まっすぐな視線の奥には10代の時のようなギラギラしたものが見て取れる。大分では、あのU-20W杯の時のように泣けるぐらい自分を出し切れるだろうか。J2降格の危機にさらされている大分を残留に導くことができれば嬉し涙ではなく、大きな笑みが梅崎の表情に広がるはずだ。

FMヨコハマ『日立システムズエンジニアリングサービス LANDMARK SPORTS HEROES

毎週日曜日 15:30〜16:00

スポーツジャーナリスト・佐藤俊とモリタニブンペイが、毎回、旬なアスリートにインタビューするスポーツドキュメンタリー。
強みは機動力と取材力。長年、野球、サッカー、バスケットボール、陸上、水泳、卓球など幅広く取材を続けてきた二人のノウハウと人脈を生かし、スポーツの本質に迫ります。
ケガや挫折、さまざまな苦難をものともせず挑戦を続け、夢を追い続けるスポーツヒーローの姿を通じて、リスナーの皆さんに元気と勇気をお届けします。

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