川崎フロンターレで唯一欠かせない存在。田中碧が持つ特殊能力とは? (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 藤田真郷●写真 photo by Fujita Masato

 最強時代のバルセロナだったら、三笘はリオネル・メッシに相当するが、田中はシャビ・エルナンデスやアンドレス・イニエスタに匹敵するだろう。

 高いレベルでのサッカーの攻防は、中盤をどちらが制するか、にある。その裏を取ればチャンスになるし、取られたらたちまちピンチとなる。なぜなら、バックラインはフィルターがない状況で一か八かにならざるを得ず、殺到する攻撃者たちを防ぎきれないからだ。

 今や世界最高のMFのひとりであるフランス代表エンゴロ・カンテ(チェルシー)は、この戦線での攻防で抜きん出ている。今シーズンのチャンピオンズリーグ準決勝、カンテはレアル・マドリードと対戦したが、中盤の戦線を封じ、突き破った。これで戦局を有利に動かし、チームを勝利に導いたのだ。

 田中も、まさに中盤の戦線を制圧できる。ラインを踏み越えようとする相手を潰せるだけでなく、高さでも負けず、カバーに入って周りとの連係からボールを取り返すのもうまい。走りの質も高く、ラインを踏み越えてボールを受けられる。基本技術が高いため、厳しい状況でもプレーの質が落ちない。ボールを持ち運べるダイナミズムもあり、悪路も踏破する四輪駆動車のようだ。

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 さらに特筆すべき点は、プレーの連続性だろう。たとえボールを失っても、しつこく奪い返し、それをチャンスにつなげられる。攻守一体の執念とインテリジェンスだ。

 札幌戦の後半アディショナルタイムには、トータルプレーヤーとして象徴的シーンがあった。味方のヘディングが五分五分でセンターサークルに落ちた時、田中は相手よりもほんの一瞬だけ早く突き出し、小林悠へ完璧なダイレクトスルーパスを送っている。これで2-0とし、ダメ押しになった。

「誰の主人でもないボールをものにできるか」

 それは世界で活躍するMFの条件と言われる。どれだけパスセンスがあっても、走行距離があっても、ボールの主人となれない選手は通用しない。その"際"が勝負を決めるのだ。

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