ゴールから逆算してプレーを選択する中村憲剛らしいキャリアの幕引き

  • 浅田真樹●文 text by Asada Masaki
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 川崎フロンターレが、歴史的ハイペースで勝ち点を積み上げている。

 11月3日に行なわれた試合が終了した時点で、2位との勝ち点差は16。もはや今季J1での2年ぶり3度目の戴冠は動かしようがなく、あとの焦点は、いつ決まるか、だけだろう。

 だが、そんな最強集団も3年前を振り返れば――それはすなわち、川崎が初優勝を遂げたシーズンだが――、まだまだ危うさと背中合わせのチームだった。

 2017年AFCチャンピオンズリーグのグループリーグ、等々力競技場で行なわれた広州恒大(中国)戦でのことである。

 川崎はこの年から鬼木達が監督に就任し、まだ2カ月ほどが経過したばかり。前任者の風間八宏が標榜したパスサッカーを継承しようとはしていたものの、選手の入れ替わりもあり、それぞれの特長をすり合わせながらの手探り状態で戦っていた。

 この試合でも、前半の川崎にはミスが目立ち、ボールは両チームの間を行ったり来たり。ボールポゼッションは高まらず、まったくゲームを落ち着かせられずにいた。

 ところが、ハーフタイムを境に川崎のサッカーは一変した。

 理由は単純。ベンチスタートだった中村憲剛が、後半開始とともにピッチに立ったからである。

 中村を媒介としてピッチ上の選手がガッチリとつながった後半の川崎は、テンポよくボールを動かし、いくつかのシュートチャンスを生み出した。結果的に0-0の引き分けに終わったものの、後半はまるで前半とは違う試合になっていた。

 例えて言うなら、中村が入ったことで水道管のあちこちの詰まりがきれいになくなり、ポタポタと水滴をたらすだけだった蛇口からは、淀みなく水が吐き出されるようになった。そんな印象の試合だった。

 さすがは憲剛。彼がいるといないとで、こんなにもピッチ上で展開されるサッカーの質が変わってしまうのかと驚かされる一方で、その存在があまりに大きすぎるようにも感じられた。

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