2020.07.29

「マリーシアの王」ルイゾン。
万事に抜け目ない男が来日するまで

  • リカルド・セティオン●文 text by Ricardo Setyon
  • 利根川晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko

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 今回の主役、ルイゾンが日本でプレーしていたことを覚えている人はきっと少ないだろう。2002年W杯の世界チャンピオンの一員だが、日本ではたったの6試合しかプレーしていないからだ。にもかかわらず、私がこの列伝のひとりに選んだ理由は、彼が典型的なブラジル人プレーヤーであり、そのストーリーはとても興味深いからだ。

「典型的なブラジル人選手」という場合、ふたつのタイプに分類される。

 ひとつは華麗で絶対的なテクニックを持ち、足技で人々を魅了するタイプ。もうひとつは狡猾で、チャンスを絶対に見逃さず、なりふり構わず自分のものにしていくタイプ。前者の代表がロナウジーニョやジーコならば、後者の代表がルイゾンだ。

 90分懸命に走ったりはしないが、ここぞという時には、最高のタイミングで、最高のポジションにおり、結果を出す。相手を挑発し怒らせファウルを誘い、大げさな演技でPKを勝ち取る。

 日本では決していい顔をされない狡猾さだろうが、サッカーで勝利するには時にはこういったことも必要だ。ブラジルではこれをマリーシアという。日本人選手に一番足りないものとして、ジーコも口を酸っぱくして繰り返しているマリーシア。ルイゾンは、いうなれば"マリーシアの王"だ。

 それを物語るエピソードがある。

2002年W杯で優勝したブラジル代表の一員だったルイゾン photo by Yamazoe Toshio 2002年日韓W杯、ブラジルの初戦の相手はトルコだった。楽に勝利できると思っていた油断もあってか、ブラジルはトルコに先制され、焦っていた。ロナウドがゴールをしてどうにか同点にしたが、ロナウドの調子が悪かったのは目に見えていた。

 そこでルイゾンがロナウドに代わって入った。試合が1-1のまま終わるのかと思われた87分、トルコのアルパイ・オザランが彼を止めようとユニホームに手をかけた。場所はペナルティエリアからゆうに3メートルは離れていた。

 しかし、ルイゾンはこの絶好のチャンスを逃がさなかった。大げさに前方に飛び、ペナルティエリアの中へと倒れ込んだ。韓国人の審判はまんまとその手にひっかかり、ブラジルにPKを与えた。これをリバウドが決め、ブラジルは初戦で勝利することができた。