仲川輝人の才能を開花させた
横浜F・マリノスの超攻撃サッカー (2ページ目)
「これまでの苦しかった時期を思い出した。マリノスのために恩返しがしたいという想いのなかで、それを実現できてよかった」
FC東京との"優勝決定戦"をモノにしてリーグ制覇を成し遂げた仲川の胸中には、喜び以上に、ようやく貢献できたという安堵の想いが広がっているようだった。
右サイドの仲川、中央のマルコス・ジュニオール、左のマテウス(遠藤渓太)、そして頂点のエリキ(エジガル・ジュニオ)。この前線カルテットが奏でる攻撃力こそが、横浜FMの優勝の最大の要因である。奪った得点はリーグ最多の68。1試合平均2得点のハイアベレージでゴールを重ねた。
ハイラインによるポゼッションスタイルは、リスクと表裏一体だ。ボールを失えば一気に致命傷を負いかねない。昨季はその精度が足りずに残留争いを強いられたが、スタイルの質を高めた今季は開幕から上位争いを演じ、夏場以降にギアを一段階高め、終盤は最終節まで7連勝で頂点へと駆け上がった。
今夏に加入したエリキとマテウスの存在も大きかったが、シーズンを通してブレなかったのは、"走り切る"意識だろう。ボールを奪えば、前線の4人が躊躇なく前へと飛び出していく。逆に奪われた瞬間はすぐさま踵(きびす)を返し、相手よりも素早く帰陣する。
スペースを与えないトランジションの速さこそが、今季の横浜FMの強さの秘訣だったように思う。そして、そのプレーを誰よりも体現していたのは、仲川だった。FC東京戦では得点に絡めなかったものの、背後のスペースに出されたボールにいち早く反応し、何度も相手の攻撃を食い止めていたのが象徴的だった。
テクニカルでありながら、高いインテンシティを実現する。それは仲川だけでなく、チーム全体で共有していた意識だろう。今季の横浜FMは、走行距離とスプリント回数がともにリーグトップを記録した。異質なスタイルの根底には、「走力」というベースがしっかりと備わっていたのである。
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