鳥栖、J1残留へ大きな一歩。ズシリと重いベテラン豊田陽平の言葉 (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by KYODO

「(イサック・クエンカ、アン・ヨンウというサイドアタッカーが不在で)左はイサック同様、(小野)裕二があそこでボールを収めて、攻撃を動かしてくれたと思います。右は(原)輝綺が特長であるスピードを使って、相手の選手(高橋諒)を消す役目をしてくれました。相手はどのように選手を起用してくるか、わかりにくかったはずです」(鳥栖・金監督)

 鳥栖は今季、ルイス・カレーラス監督の暗黒時代の1勝1分け8敗から巻き返してきた。その要因のひとつは金監督のマネジメントにあるだろう。選手を適材適所で使い、同時にその才能を最大限に生かし、伸ばしている。

「お互いがお互いのストロングを活かせるように」

 金監督は選手を公平に扱い、一方で要求もする。そうやって集団のなかの個としての力を引き出し、競争も高めてきた。すでに力が落ちていたフェルナンド・トーレスに見切りをつける英断も、チームを浮上させるきっかけになった。

 しかし、後半になると、ネジを巻かれたように前へ出る松本に、鳥栖は押し込まれる。完全にペースを失い、失点の予感が漂っていた。

 そこで金監督が切ったカードが豊田だった。67分、金森健志に代わって投入。かなり緊急的な交代だったようで、豊田はトイレから戻ってくるところだったという。

「とにかく走り回ってほしい。相手の6番(藤田息吹)が空いていて形を作られているから、そこ(へのパスコース)を閉めるように」

 豊田は金監督から受けた指令を愚直に、それ以上の強度と精度で実行した。反転して逆方向へも走る"二度走り"で、相手にプレッシャーをかける。大きな体躯で猛然と迫ることによって、相手GKのキックがタッチラインを割ってしまうほど、心理的に敵を狼狽させた。

 鳥栖は豊田の投入で松本の攻め手を見事に切って、流れを引き戻している。原川力が決定機をつかむシーンもあった。松本が終盤、FWの枚数を増やし、長いボールやセットプレーの一発勝負にかけるが、思いどおりにはさせていない。そして1-0のまま、鳥栖は逃げ切った。

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