それでもイニエスタはあきらめない。神戸、力負けで15位に転落

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by KYODO

 ヴィッセル神戸のディフェンダー、渡部博文は先日、同僚のアンドレス・イニエスタを食事に誘ったという。その席で渡部は、バルセロナやジョゼップ・グアルディオラについて熱心に掘り下げて聞き、気になった言葉をメモに取った。当然、神戸の現状についても話した。

「まずは3連勝しよう!」

 イニエスタは明確な数字を出して語ったという。

「自分はこのチームに来て、連勝はしたけど、3連勝はない。勝ち続ける。そうやって上位を目指し、ACL(アジアチャンピオンズリーグ)の出場権を狙おう!」

 神戸は今季、3人目の監督が就任するなど紛糾、低迷しているが、イニエスタ本人は少しもあきらめている様子はなかった。そこで渡部は、イニエスタがバルサというトップクラブで何連勝したのか、訊いた。

「16連勝だよ。最後のシーズン(2017-18シーズン)は、1敗しかしていない」

 16連勝はリーガ・エスパニョーラの史上最多連勝記録である。負けを憎み、勝ちを誇った男の矜持だ。

湘南ベルマール戦で先制ゴールを演出したアンドレス・イニエスタ(ヴィッセル神戸)湘南ベルマール戦で先制ゴールを演出したアンドレス・イニエスタ(ヴィッセル神戸) 7月14日、BMWスタジアム平塚。空は分厚い雲に覆われていたが、芝生を濡らす程度の雨しか降っていない。湿度は高いが、気温は下がって、プレーコンディションは整っていた。

 14位の神戸は15位の湘南ベルマーレとの敵地戦だった。凱歌をあげ、降格圏を抜け出し、再び上位に進む足掛かりにできるか。

 元スペイン代表MF、イニエスタはその舞台で、異境から来た魔神のような存在感を示している。

 イニエスタがボールを触って弾くたび、神戸の選手たちはアドバンテージを取ってプレーしていた。自らに敵を引きつけ、ボールを動かし、周りに時間的、空間的優位を与える。当然、イニエスタは湘南の選手に集中して潰されそうになるが、これをクルクルと軽快なターンで翻弄。スルスルとボックス内まで入り、際どい好機を作った。

 圧巻は20分のプレーだ。

 自陣内でGKからのボールを、ディフェンスを背にして受けたイニエスタは、身体の動きで外側に運ぶフェイントを入れる。猛然とプレスに来た湘南の選手はこれだけで外側に大きく振られてしまい、中を空けた。その刹那、イニエスタは中へボールをコントロールし、右サイドを走る古橋亨梧の足もとに、センチ単位で合わせるパスを右足で送っている。古橋がこれをインサイドに持ち込み、左足を振ってゴーネットを揺すった。

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