2019.03.07

イニエスタに見とれる同僚たち。
魔法使いのプレーは哲学的で奥深い

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki 原壮史●写真 photo by Hara Masashi

 アンドレス・イニエスタヴィッセル神戸、34歳)のプレーは、変幻自在だ。

 J1リーグ第2節。対戦したサガン鳥栖の選手が、必死の形相でイニエスタを後ろから追いかける。つかまえたと思って飛び込んだ途端、クルッと回転されてかわされた。置き去りにされた選手は、呆然とするしかない。

 そこで今度は2、3人の選手が、よってたかって一気に包み取ろうとする。逃げ道はすべて塞いだはずだった。ところが、後ろ向きのイニエスタにヒールキックで股間をとおされ、唖然とする。

 彼らはまるで、捕り物で地団駄を踏む刑事のようだった。

サガン鳥栖戦で華麗なボールコントロールを見せるアンドレス・イニエスタ(ヴィッセル神戸)「練習からそんな感じですよ。信じられない光景が広がるというか」

 ヴィッセル神戸のセンターバック、渡部博文はそう言って肩をすくめた。

「ボールをキープしながら、上体をブンっと振るだけなんですよ。それだけで、3人ぐらいの選手が簡単に振られます。アンドレスは、ボールすら触っていないんですけどね」

 それは、もはや魔法だ。Jリーグ2年目のイニエスタ。その技に一点の曇りもない。

「『イニエスタ選手はうまいですね!』『チームに何をもたらしますか?』『得点ですか、アシストですか?』などという聞き方をされる。でも、それは本質的な問いではない。アンドレスは、フットボールを創り出せるんだからね」

 フアン・マヌエル(ファンマ)・リージョ監督は、イニエスタのプレーを哲学的にこう表現する。

 イニエスタは大袈裟に言えば、ボールに命を与えられる。寸分違わない精度だけでなく、彼の蹴るボールにはメッセージが込められている。次にどんなプレーを選択すべきか――。受け手は視界が広がり、タイミングまで伝わって、より速く、より正確に、次の動きに入ることができる。