トーレスも守備に奮闘。鳥栖は「らしさ」を取り戻して生き残った (3ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki photo by Masashi Hara/Getty Images

「(監督からの指示は)プレスバックし、背後を狙って、という感じでした。名古屋が追いついた(名古屋対湘南が2-2になった)のは言うな、という指示でしたが、ピッチの選手は知っていたようです」(鳥栖・豊田陽平)

 スクランブル状態の終盤、トーレスに代わって鳥栖を長年支えてきた豊田が、"クローザー"として投入される。まもなく、試合終了を告げるホイッスルが鳴った。鳥栖の選手たちは大げさに喜ぶことはなかった。安堵に近い気持ちだろうか。なんと5チームが勝ち点41で並び、得失点差での残留だった。

 もし、監督交代が1試合でも遅れていたら――。鳥栖の関係者にとって、ゾッとする事態になっていただろう。

 U-18を率いていた金監督は、基本に立ち返った。

「外側の足を使おう」「アングルとって斜めのパス」「お互いの距離が大切!」......そんなトレーニングで、各自が自信を取り戻していった。それ以前は、ボールを使わないという偏執的な練習が多く、守ることのみに執着することになっていた。金監督は単純にプレーのテンポを高め、失いかけていたダイナミズムを回復した。

「来季、自分がどうとかは決まっていません。でも、勝ち点を積み上げ、チームのポテンシャルは見せられたと思います。残留が目標ではなくて、優勝するようなチームを作っていかないと」

 金監督は、J1残留をそういう言葉で締めくくった。現役時代を鳥栖で過ごし、U-18も率いてきた金監督は、誰よりも鳥栖のスピリットを持つ。「鳥栖らしさ」。それをアップデートした戦いぶりで生き残ったのだ。

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