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ひとりでもサボれば成立しない。
「湘南スタイル」でVは努力の賜物だ (2ページ目)

  • 原山裕平●取材・文 text by Harayama Yuhei
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 曺監督には、グループリーグを勝ち上がった時点で、優勝できる確信があったという。決勝の前にも「優勝するよ、おまえら絶対」と送り出したそうだ。決して選手たちに自信を与えるために言ったわけではない。なにより選手たちの成長を感じていたからこその言葉だった。

 試合を決めたのは、その成長の体現者のひとりである2年目の杉岡大暉だった。東京五輪世代のウイングバックは36分、エリアの外でボールを拾うと、間髪入れずに左足を一閃。「一回思い切ったプレーをしとかなきゃ」という積極性がもたらしたスーパーゴールだった。

 しかし、そのゴールシーンを巻き戻せば、「湘南スタイル」を象徴する前への意識が備わっていたことがわかる。縦パスを入れ、味方がファウルを受けて倒されてもなお、こぼれ球を拾って縦につける。相手に触られふたたびルーズボールとなっても、鋭い出足でまたしてもマイボールにする。足を止めず、プレーを続行する。その縦への連続性が、杉岡の決勝ゴールの呼び水となったのだ。

 立ち上がりから仕掛け続けたハイプレスも、勝利の要因だ。後方からつなぐ横浜FMのビルドアップの精度を狂わせ、高い位置で次々にボールを奪い取った。もっとも、奪っても最後の場面のクオリティを欠き、なかなか決定機に結びつけられなかったことも、逆説的に「湘南スタイル」を象徴しているかもしれない。

「湘南っていうチームはスター選手もいないですし、代表選手がいるわけではないですけど、みんながサッカーに真摯に取り組んで、仲間にも自分にも強い要求をしてここまで勝ち上がってきた。本当に努力の賜物だと思います」

 10番を背負う秋野央樹が言うように、湘南にはひとりで試合を決定づけられるような圧倒的な個性は存在しない。それでも、みんなが同じ目的意識を持って前を向き、ミスをカバーし、決して手を抜くことなく、90分間走り続ける。その自己犠牲の精神こそが、強化な組織を形作る。ひとりのスーパースターがいれば、決して「湘南スタイル」は生み出されなかっただろう。

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