最高の戦術家・リージョは「バルサ化」推進の神戸に何をもたらすか

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki photo by AFLO

「こんな内容ではまったく満足できない!」

 1995-96シーズン、当時スペイン1部リーグ史上最年少の29歳でサラマンカの指揮を執っていたフアン・マヌエル・リージョは、憤慨するように語っていた。それも試合に勝利した後の会見である。フットボールの回路、原則に沿えず、勇敢さにも欠け、ただ偶発的に勝っただけのプレーをたしなめていた。サラマンカは昇格したばかりの地方クラブであり、勝利するだけでも十分な戦果だったが、決して妥協しなかった。

 戦術家としての自負だったのだろう。

「私は選手にまず状況を理解してもらう。そこに多くの情報を与え、選手が選ぶべきプレーにロジックを与える。そこからは選手の判断。戦術とは知識と理解で、難しい状況が起こったとき、無意識に対応するための助けとなる。つまり、戦術を知ることで、予測することができ、準備して優位に戦えるのだ」

 新たにヴィッセル神戸を率いることになったリージョ監督は、そういう男である。

 リージョは同じスペインの英雄、アンドレス・イニエスタを擁して"バルサ化"を進める神戸を強くできるのか?

バルセロナ前監督ルイス・エンリケと談笑するフアン・マヌエル・リージョ(右)バルセロナ前監督ルイス・エンリケと談笑するフアン・マヌエル・リージョ(右) リージョは生粋のサッカー監督だ。
 
 10代半ばで選手としてのキャリアには見切りをつけた。「プロとしての将来はない」と諭され、現実を悟った。しかし新たに、監督としての人生に道を見いだした。

 10代にして同年代の選手を率い、地域リーグから全国リーグへ昇格させ、なんと全国準優勝にまで押し上げている。20歳でトップチームを率いるようになると、チームを4部から3部に引き上げた。26歳のときに率いた3部のクラブでは、当時斬新だった4-2-3-1のシステムを生み出した。

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