横浜FMを戦力外になった小林祐三が語る「鳥栖で選手が再生する理由」

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki photo by Masahiro Ura - JL/Getty Images

<スタジアムと町が選手を強くする>

 世界のサッカークラブでは、それはひとつの常識になっている。人々の熱狂や愛情は、選手が成長する触媒になる。ただ、激しすぎたり、粘り気のある感情は、選手を窮地に追い込むこともあるだろう。そこに慈しみがあるかが問われる。

今季からサガン鳥栖に移籍した右サイドバックの小林祐三今季からサガン鳥栖に移籍した右サイドバックの小林祐三 佐賀県鳥栖市は人口7万人。決して大きな町ではない。そこを本拠地とするサガン鳥栖がJ1というトップリーグにいること自体、ひとつの奇跡と言えるだろう。

 鳥栖の最大の長所は、スタジアムとそこに集う人々にあるかもしれない。ベストアメニティスタジアムは鳥栖駅の隣に位置し、老若男女、どんな立場の人も容易に通える立地にある。スタンドの傾斜も十分にあって、ピッチを近くに感じられ、熱気が渦になる。そして集う人々は基本的に好意的で辛抱強く、愛情を持ってチームを見守る。特筆すべきは、ゴール裏で選手を詰(なじ)る姿を見かけない点だろう。

 優しい目線を向けることで、選手を健やかにし、力を引き出す――。事実、エースである豊田陽平は北京五輪に出場後、失意のときを過ごしていたが、移籍してきた鳥栖で逞しく再生した。今やチームの顔となった谷口博之も、そのひとりだろう。また今シーズン、新たに入団して主力になりつつある原川力、小野裕二らも、前所属クラブでの不遇を晴らそうとしている。

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