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在籍わずか3年でも、安英学の
引退セレモニーが新潟で開催された理由 (4ページ目)

  • 木村元彦●文 text by Kimura Yukihiko  photo by Nikkan Sports/Aflo


 先述したドキュメンタリーの中で安は横断幕を前にして「人間レベルではこうやって『心はひとつ』になれるんですけどね。国家同士になると痛いところを突き合ってしまって......。僕は中間にいる者として橋をいろんなところに架けたいんですよ」と語っている。今、振り返ってみると安は有言実行の男だった。そう、この後、彼は多くの橋をあらゆるところで架けていくのだ。改めてそのフットボーラーとしての半生を振り返ってみたい。

 筆者が安と知り合ったのは2005年の春であった。コミック誌『ヤングジャンプ』で安の半生を漫画化することになり、その原作を担当することになったのだ。本人を取材した際、彼が決して在日蹴球界の育成コースに乗ったエリートではなかったことを知った。

 19歳。幼少期からの育成のサイクルが早くなった現在のサッカーの世界では、とうにプロ契約を済ませて代表デビューを飾っていてもおかしくない年齢で、安はJリーグどころか、どこのチームにも所属していなかった。まったく無名の浪人生はプロを目指し、その過程として日本の大学に入るために受験勉強とトレーニングを黙々とこなしていた。全国大会の出場経験も無いそんな男がやがて国家代表になり、W杯へ出場していく。このドラマのようなストーリーを二人三脚で支えたのはサッカー部の出身でもなく、これまたまったく無名のただのサッカー好きの男だった。浪人生とただの男。ふたりは何もないところから、夢を見て実現させていく。

(つづく)

    

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