17年の現役生活に幕。いま北嶋秀朗の胸に去来するもの (2ページ目)
「コメンテーターは、言葉を選びながら考えていることを人に伝えないといけない。もちろん、選手時代もまったく考えていなかったわけではないですけど、やっぱり責任感は全然違いますよ。自分はこれからサッカー指導者としてやっていくつもりですけど、こういうマスコミの仕事も面白いと思うし、サッカー界で生きていく上でとても勉強になりますね」
ようやく焼けた肉を白飯とともに頬張りながら、彼は言った。
12月13日に発売になる『グロリアス・デイズ~終わりなきサッカー人生』(集英社)で描いた<引退を決意するまで~魂のかけら>は、北嶋が現役引退を決意するまでの書き下ろしノンフィクションである。一つ言えるのは、その肉体がぼろぼろだったということ。彼はまさに魂を削るかの如く選手人生を送り、かけらまでが消えていたのだった。
その燃え尽きようとする思いは、同じピッチに立つ選手には強く感じ取れたかもしれない。2013シーズンの終盤、J2アビスパ福岡戦は象徴的だった。戦友であり、かつての同僚だった古賀正紘は、北嶋との最後の試合という思いに感極まり、人目を憚(はばか)らずに泣きじゃくっている。抱擁する二人の姿に、スタンドからも拍手と歓声が鳴り響いた。
「引退するとき、多くの選手が"やり残したことがある。後悔がないはずはない"とよく言うじゃないですか? でも、自分は本当に綺麗さっぱりなかったんです。やりきったというか」
北嶋はサバサバとした表情で言う。サッカー選手としての魂を自ら成仏させた、ということだろうか。その意味で、彼ほど幸せなフットボーラーはいない。
そして戦う男の思いは、受け継がれる。日本代表FWの工藤壮人を筆頭に、柏レイソルの主将を務める大谷秀和、清水エスパルスで奮闘する杉山浩太、横浜F・マリノスで優勝争いに貢献した小林祐三など、北嶋から強い影響を受け、ピッチで輝きを放つ選手は少なくない。それは北嶋という男がサッカー界に残した財産の一つだろう。
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