サッカー日本代表のE-1選手権での狙い ターンオーバー、システム変更はワールドカップのシミュレーションか (3ページ目)
【コーチングスタッフのW杯リハーサル】
今大会でひとつ気づいたのは、森保監督が試合後の記者会見でコーチたちのことに何度も触れていた点だ。質問の内容によっては「名波(浩)コーチが......」といったように個人名にまで言及した。
今回招集の選手で来年のW杯にも参加するのは多くても2、3人だと思うが、監督・コーチ陣は全員がW杯で一緒に戦うのだ。短い試合間隔でリカバリーを行ないながら、チームにゲーム戦術を落とし込む......。
今後、日本代表は強化試合を繰り返すが、大会形式での試合はない。そこで、森保監督は今回のE-1選手権をコーチングスタッフのリハーサルとして使ったのではないか。
第2戦の中国戦。日本は右から望月、綱島悠斗、植田、長友の4バックでスタートした。しかし、中国は3バックでウイングバック(WB)を使ってきたのでシステム上のミスマッチが生じる。すると日本は、右サイドは望月が高い位置でWBに対応。左サイドはサイドハーフの俵積田晃太がWBを見る形で3バックに変更して対応した。
W杯予選では森保監督は一貫して3バックで戦ってきた。カタールW杯のドイツ戦ではシステム変更によって逆転勝利をつかみ取ったが、この時はハーフタイムに選手交代を伴う変更だった。
だが、中国戦では流れのなかで、選手交代を使わずにシステム変更をしたのだ。
森保監督によれば、試合前から2つのシステムを使えるように準備していたのだと言う。
つまり、事前に可変システムを落とし込み、試合中に的確なタイミングで指示を出してスムースに変更を実施させる。中国戦はそのシミュレーションだったのだ。
普段一緒にプレーしている選手ではないチームでそれを行なうのはかなり難しいことだが、それでもシステム変更に成功した。それはコーチングスタッフの力によるものだ。欧州組を含む本来のチームであれば、よりスムースに可変システムを使えるかもしれない。次は、強豪相手にも中国戦のようなシステム変更をテストするのだろう。
もう少し深読みすれば、中国が3バックで来ることは初戦を見ればわかっていたはずだ。それでもあえて4バックでスタートしたのは、流れのなかでのシステム変更を試すためだったのかもしれない。
今回のE-1選手権。「新戦力の発掘」という意味ではそれほど多くの選手が網にかかったとは思えないが、大会形式のなかでのチーム管理や完全ターンオーバーの実施、そして可変システムのシミュレーションといった意味で、コーチングスタッフにとってよい経験になったのではないだろうか。
著者プロフィール
後藤健生 (ごとう・たけお)
1952年、東京都生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。1964年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、1974年西ドイツW杯以来ワールドカップはすべて現地観戦。カタール大会では29試合を観戦した。2025年、生涯観戦試合数は7500試合を超えた。主な著書に『日本サッカー史――日本代表の90年』(2007年、双葉社)、『国立競技場の100年――明治神宮外苑から見る日本の近代スポーツ』(2013年、ミネルヴァ書房)、『森保ジャパン 世界で勝つための条件―日本代表監督論』(2019年、NHK出版新書)など。
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