サッカー日本代表・森保監督は27人中何人起用できるか W杯で勝つために必要な先を見越した計画性
連載第32回
杉山茂樹の「看過できない」
バーレーン戦の直前にこの原稿を書いているので、何か意見したところで効果はまったく期待できない。現実に押し流されることになるだろうが、それでも言わざるを得ないことがある。追加招集した中山雄太、町野修斗を加えた全27人の使い方だ。
欧州シーズンは佳境を迎えていること。日本はその欧州から最も離れた国のひとつであること。日本は出場権をほぼ確定させていること。次戦でインドネシアとサウジアラビアが引き分け以下なら、日本はあと1勝ではなく、1分けでオッケーなこと。なにより対戦相手との力関係で勝ること。ホーム戦であること......。さまざまな背景に照らせば、27人中10人ぐらい入れ替えるべきだ。それが真の強化につながると、筆者はメンバーの発表前に書いた原稿に記している。
それはいつもどおり、ないものねだりに終わった。配布されたリストにはいつものメンバーが並んだ。森保一監督はベストメンバー至上主義をここでも発揮した。「FIFAランクを少しでも上げるために負けていい試合はひとつもない」とは、メンバー発表会見に同席した山本昌邦ナショナルチームダイレクターの弁である。
この"一戦必勝文化"に染まる日本旧来のスポーツ精神では、W杯でベスト8以上は望めない。そこで6試合戦おうと言うのなら、問われるのは総力戦だ。点取り虫のごとく、目先の勝利を過度に欲してメンバーの固定に走れば、2022年カタールW杯、2018年ロシアW杯がそうだったように、3戦目、4戦目で行き詰まる。メンバーのやりくりができなくなる。監督采配には1試合1試合、漸次的に、まさにグラデーションを掛けるようにメンバーをいじっていく手腕が求められる。
森保監督はいまだそれができない。気質を備えていないのである。それは一戦必勝文化に染まる日本人監督すべてにあてはまる傾向と言ってもいいかもしれない。ロシアW杯、カタールW杯、そして森保監督が2度戦ったアジアカップしかり。そして極めつきは東京五輪だった。強行軍のなか、なぜ同じメンバーで戦ったのかと問われた森保監督はこう語った。
「日本にはまだそうした戦いができるだけの余裕がない」
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著者プロフィール
杉山茂樹 (すぎやましげき)
スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。