サッカー日本代表はまたもベストメンバーを招集 相手を必要以上に警戒して「硬直」している (3ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki

【逆転したオーストラリアとの関係】

 昔のほうが強かった――、この印象はオーストラリアにもあてはまる。新たに就任したトニー・ポポビッチ監督は、森保監督とかつてサンフレッチェ広島で一緒にプレーした間柄だ。元チームメートと戦う気持ちについて問われた森保監督は、ポポビッチ監督のことをしきりに持ち上げた。しかし、オーストラリアの戦力の弱体化はサウジアラビア以上だ。日本が1-3で敗れた2006年ドイツW杯時を10とすれば、いまは7程度にすぎないだろう。

 オーストラリアには、欧州組がかつては数多くいた。オーストラリアは現在の日本のような存在だった。だが、日本と決勝を戦った2011年アジアカップ以降、低迷が始まり、現在に至っている。逆に日本はいまが少なくともメンバー的には史上最強だ。欧州組は100人を数える。両者の関係はすっかり逆転した。

 ホーム&アウェーを戦えば、サウジアラビアもオーストラリアも負け越す相手ではない。

 相手を必要以上に警戒し萎縮する。5バックで後方を固める作戦も、敗戦を恐れすぎることに由来する。先を見据えた戦いが森保監督にはできないのだ。2021年東京五輪後の会見で、森保監督は自ら「日本が先を見据えた戦いをするのはまだ早い」と述べている。だがそれができなければベスト8は狙えない。

 W杯でベスト8を狙いたい欧州の上位国が、どんなメンバーで目の前のW杯予選に臨んでいるか。あえてベストメンバーでは臨まず、勝ちながらテストしていく。勝負とトライを両輪のような関係でそれぞれを追求する。そうしたスタンダードを身につけた指導者でないと、いい線まできている日本代表の監督は務まらないのではないか。

 18カ月後のベストメンバーと現在のベストメンバーは違う。違わなければならない。そうした前提に立ったとき「いつも不動のメンバー」はいかにも後進国的だ。ベストメンバーが誰なのかよくわからない、混沌としたチーム状態でもサウジアラビアとオーストラリアに勝利することができないと、W杯本大会でベスト8は望めない。

 そんな森保監督を懐疑的な目で見る人は少ない。代表チームの在り方について考え直さないと、日本サッカーの右肩上がりは停滞する。筆者にははっきりとそう映る。

著者プロフィール

  • 杉山茂樹

    杉山茂樹 (すぎやましげき)

    スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。

フォトギャラリーを見る

3 / 3

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る