パリオリンピックに臨むなでしこジャパン・北川ひかる――どん底まで落ちたエリートはどうやって復活を遂げたのか (3ページ目)

  • 早草紀子●取材・文 text&photo by Hayakusa Noriko

 その間、彼女のファーストタッチが格段に柔らかくなった。それによって、次のプレーまでの無駄がなくなった。

「ファーストタッチは、めちゃくちゃ大事ですね。そこは、すごく上がったと思います。めちゃくちゃ練習が細かかったんですよ。線の上でトラップしろ、っていうくらい細かい(笑)。でも、自分で意識してやっていた人たちは必ずよくなるってわかっていたし、だから、自分もやり続けました。

 そうした練習の反復で身についたものは、大きいですよ。単純なことですけど、パスとコントロールを突き詰めていくと、自分のプレーに時間、余裕が生まれるんです。その時間は何秒あるかわからないですけど、いやコンマ何秒の話かもしれないですけど、その余裕が生まれることによって、本当に(自らの)選択肢、視野が広がる。それが、今のプレーにつながっていると思います」

 納得の話である。ファーストタッチを極めたことにより、彼女から出てくるダイレクトパスのクオリティは高い。見ていて気持ちがいいくらいに、チャンスの匂いしかしない。力技で相手をねじ伏せるプレーといった印象が強かったアンダーカテゴリーの頃とは、一変した。

「はいはいはい(笑)。当時はまさにそんな感じでしたよね。若かったなぁ~」

 そう言って笑う北川。神戸から届いた翌年のオファーには応え、同チームの左サイドでかつてないほどの自信を持って大暴れしている。

「(神戸に移籍して)最初は不安もありました。でも、順位も常に上にいるチームで、このチームのなかで毎日やっていれば、(自分も)日本のなかでは上のレベルにいけると思っていました。ゴールにより近いところでプレーできていますし、クロスもめっちゃ練習しているんで(笑)。

 そこで、サイドバックっていうポジションになって、そこから自分の長所をより生かせるプレーが増えた。いろいろ経験してきたし、その経験があるから、今がある。そろそろ......(自分も)脂がのってきたな、という実感はあります」

 エリートコースから一転、若くして日本のトップクラスの壁にぶち当たった北川。どん底から這い上がってきた今、いよいよ彼女の真価を発揮するときがきた。

(つづく)◆どん底で心の支えになった長谷川唯>>

パリ五輪での活躍が期待される北川ひかるパリ五輪での活躍が期待される北川ひかるこの記事に関連する写真を見る北川ひかる(きたがわ・ひかる)
1997年5月10日生まれ。石川県出身。小学校卒業と同時に、JFAアカデミー福島に入校。2014年U-17女子W杯では日本の優勝に貢献する。2015年、特別指定選手として浦和レッズレディース入り。翌年、正式に入団。2018年、アルビレックス新潟レディースに完全移籍。2023年にはINAC神戸レオネッサに移籍し、主力として活躍。翌2024年、なでしこジャパンへ復帰。パリ五輪の代表メンバーとなり、大舞台での飛躍が期待される。

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