INAC神戸の社長が選手たちに「本当の数字」をすべて伝える理由。WE2年目に向けての秘策も語った (2ページ目)

  • 早草紀子●取材・文・写真 text by Hayakusa Noriko

スポーツエンターテインメントとは

 WEリーグクラブは運営資金の大半をスポンサー収入で賄っている。INACはその規模も大きい。安本氏は選手たちに観客動員数においても招待を除いた"本当の数字"を伝えているという。本来チーム側としては伝えたくない数字だ。

「ウチは全部見せます(笑)。1シーズンで2万人強を『神戸市民観戦会』など、あの手この手の企画で招待してスタジアムの雰囲気を作っていることになります。"本当の数字"の収入だけではINACは潰れてますよって伝えています。

 原資はスポンサー収入。だから、サッカー以外での選手の発信、言動、姿勢というのが大事なんです。選手たちもインタビューなどで『色々やっていかないといけない』と言っているのは知っていますが、実際にはそれをどのように表現していいのか定まっておらず、ウチもまだまだです。もっと応援してくださるみなさんとのタッチポイントを増やしていきます」

 やはり重要なのはスポーツエンターテインメントをどう捉えて具現化していくか。安本氏の言葉を借りるなら"当事者"であるリーグ、チーム、選手たちが理解した選択をしていかなければならない。この分野においては発展途上の日本である。すべてトライ&エラー精神で突き進んでいくしかない。その点でも初代チャンピオンとしての次なる行動に期待が高まる。

「連覇ありきじゃなくて、見に来てくれたお客さん、DAZNの視聴者に見に行きたいと思わせるようなパフォーマンスを求めたいです。あえてプレーとは言いません(笑)。それはゴールパフォーマンスかもしれませんし、誕生日パフォーマンスかもしれません。

 僕ね、この世界に来てずっと感じていたことがあるんです。WEリーガー、なでしこリーガーのゴール後や勝利後に、自分たちだけで喜んで自分たちだけの世界を作ることが多くないですか? そこにお客さんが一緒に入ってこられるようにしないとダメです」

 サンフレッチェ広島レジーナは勝利後にスタンドの観客と選手が短いながらも一緒に勝利ダンスを踊る。観客も実に楽しそうで、大事なのは"共感"だろう。

 国立競技場での一戦では、三菱重工浦和レッズレディースが先制した直後、高橋はながサポーターに「もっと盛り上がれ!」と言わんばかりに身振りで煽る場面があった。そのひとつの行動でサポーターのボルテージは一気に上がった。

「僕もあれを見て、浦和の選手はサッカー観が高いなって思いました。サッカー偏差値の差というか。その点では浦和さんはもう一歩先をいっていますよね。すごく大事なことです。選手たちはよくアーティストのコンサートとかに行っているんですけど、サッカーも同じ。ピッチはステージで、選手は演者。お客さんが何を求めているか、わかるよね? とよく話をしています」

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