WEリーグとなでしこリーグに違いはあったのか。INAC神戸の社長が語る今後の課題「惹きつける魅力が必要」 (2ページ目)

  • 早草紀子●取材・文・写真 text by Hayakusa Noriko

こだわったのは数字

 そしてもうひとつ、開幕前からこだわりを見せていたのが"数字"だった。コロナ禍真っ只中の2021年9月に開幕を迎えたWEリーグが、当初掲げていた目標観客動員数は1試合平均5000人だ。WEリーグに参加しているチームが在籍していたコロナ禍前のなでしこリーグの平均観客動員数は1340人。そこに近年の社会情勢を踏まえればかなり厳しい道のりになることは予想できた。INAC神戸のWEリーグ初年の平均観客動員数はリーグトップの3158人と唯一3000人の大台に乗せた。

「それでもまだコロナ前には全然戻っていません。ただ、こういう状況で落ち込んだ流れを少しでも巻き返そうと、(なでしこリーグ時は)年に1度程度だった近隣地域のポスティングをかなり増やしました」

 これまでも学校や行政との連携を密にしていたINAC神戸だが、あえてアナログな手法を取り、自ら汗をかくことを選んだ。

「しっかり足を使っていこうと思いました。そこで(ホームの)ノエビアスタジアム神戸の近くや、活動拠点のある地域(神戸市東灘区)にポスティングをしていこうと。その数トータル10万枚。1試合ごとに配っていたので、これがなかなか終わらないんですよ(笑)」

 そんなとき、バセドウ病と診断され、治療を続けていた京川舞選手がポスティングを買って出た。これまでもケガの多かった京川は発症直後から「第一線から離れても何かチームに貢献したい」と話しており、その想いを実行した形だった。

「彼女だけでも2万枚は配っていると思いますよ。最終的には僕の家族も手伝ってくれました(笑)。ポスティングした地域からチケット申込があったらすぐわかるようなシステムを使っています。集客は選挙と一緒の感覚です。スタッフも自分の抱えている仕事をしながらでしたけど、反応が返ってくる喜びがわかるので、やりがいがあったと思います」

 とはいえ、稼働人数も限られているなかで、すべての試合で行なえた訳ではなく、動かなかった試合では明確に数字が落ち込んだ。

「人員を国立開催に割いていたので、その前段階の試合は減少しました。力を散らさないとスタッフも潰れてしまいますから」

 ホームタウンでの活動の活性化は1000人~2000人単位で即数字に反映される。それだけ、まだWEリーグに対する一般的な興味が移ろいやすいことが伺える。安本社長が打ち立てた「WEリーグ初の国立開催」では、スタッフ一人ひとりの活動量がカギとなって、12330人もの観客が国立の地に集まった。当然のことながら今シーズンのリーグ最高記録である。当日の国立競技場にはホームゲーム開催のないチームスタッフやWEリーグ事務局関係者も駆けつけ、この国立での一戦を作り上げていたのも実に印象的だった。

「あれは安本と"その仲間たち"です(笑)。マイナビ仙台レディースの粟井(俊介)社長、坪佐(光浩)常務、アルビレックス新潟レディースの山本(英明)社長をはじめ、日テレ・東京ヴェルディベレーザのチケット担当スタッフなどの有志が前日からの手伝いを申し出てくれました。

 多くのスポンサーの方々が協賛してくださいました。お金を出すだけではなく、『みんなで応援に行こう!』と動員にもご協力いただきました。多い会社ですと1000人近く来てくれていました。僕は"国立に行こう!"と旗を振っただけ。サザエさんのエンディングにあるじゃないですか。サザエさんがピッピッピッって笛を吹きながら家族みんなを家に導いていくシーン。日曜日18時半の風景が国立には確かにありました。Jリーグともまた違う『みんなで応援しよう!』みたいなね。まさに僕が思い描いていた風景でした」

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