上田綺世を「大迫の代役」ではない姿で見たい。ベトナム戦は日本代表の本大会に向けた戦いに (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

ストライカーとしての野心を語っていた

 今シーズンの湘南ベルマーレ戦でもロングレンジのシュートを決めている。自陣からボールを左へ流れながら受けると、右足でボールを中へ運び、シュートコースを探る。エリアに近づいた時は三方から囲まれ、スライディングタックルも目に入ったはずだが、右足を振り抜いて豪快にネットを揺すった。

 自分についたマーカーに対する不敵さも、ストライカーの空気感がある。相手を蹴散らし、跪かせる強者の風体と言うのだろうか。いったん身体をぶつけながら、ふわりと離れて、足元にボールを呼び込む。マークを外すうまさだが、安っぽい技術ではなく、一瞬の駆け引きに「凄み」が浮かぶ。ゴールへの軌道に入ったら、どれだけ体をぶつけられても前に進み、シュートを撃ち抜ける。

 オーストラリア戦は、後半18分に浅野拓磨と代わっての出場になったが、ディフェンスを背負いながら反転で右足を鋭く振り抜き、際どいシュートを放った。相手を畏怖させるのに十分で、そこから日本は失っていたペースを取り戻した。

「(試合では)五分五分のフェアな賭けというか、その一瞬が自分は好きです」

 法政大学時代(鹿島入団発表前)の最後のインタビューで、上田はそう洩らしていた。

「たとえばアジア大会でのPKは、息が詰まって、呼吸が苦しくなるほど緊張しました。ボールを置く手が震えるほどで、でも同時に、『このボールをあそこに蹴りこめたら、また違う上田綺世にたどり着ける』と思っていました。逆に外せば、終わってしまう。緊張はあっても、自分が蹴るまで誰も干渉できない空気も好きで、それを楽しみたい。決められる自信はありながら、外した自分も思い浮かべて。どっちに行くのか、という瞬間が楽しい」

 自分が何者になるのか。その危うさを心ゆくまで楽しめる。彼のプレーを支えるのは好奇心や向上心なのだろうが、ふてぶてしいまでの野心も隠し持っていた。

「小学校のころ、クリスティアーノ・ロナウドのドキュメントをテレビで見たことがあって、ロナウドに『クリスティアーノ・ロナウドをどう思うか』という質問があったんです。それに対して、彼が『大好きだよ』と答えて。小学生だと『変なの』って恥ずかしがるかもしれないですが、僕はそれを見ながら素直に『格好いいな』って共感しました。自分が好きだからこそ、もっと高めたいって思えるんだろうなって」

2 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る