2021.07.04

日本代表が南米の強豪を下した歴史的一戦。指揮官は「犠牲的精神」を強調した

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 藤田真郷●写真 photo by Fujita Masato

日本代表が強豪国と戦う時(5)~アルゼンチン
(1)から読む>>

「日本は南米勢に弱い」

 そう言われて久しく、一時は定説のように語られていた。

 南米的なずる賢さ、抜け目のなさ、したたかさは、本来的にサッカーに適しており、相手を出し抜く格好のキャラクターと言えるだろう。例えばダイレクトシュートの練習ひとつとっても、彼らは無理に決まりに従うことはしない。ピッチ上で一番相手にダメージを与え、自分の個性が生きる選択ができるのだ。

 アルゼンチンはそんな南米の雄と言えるだろう。ディエゴ・マラドーナのようなファンタジスタもいれば、ディエゴ・シメオネのような闘争心の権化も輩出してきた。彼らはピッチの王様だ。日本人選手はその変幻に戸惑うばかりで、太刀打ちできなかった。

 しかし、時代の変化を感じ取った試合があった――。

 2010年10月、埼玉。アルベルト・ザッケローニ監督が新たに就任した日本は、リオネル・メッシを筆頭に、カルロス・テベス、ハビエル・マスチェラーノなどスター選手がそろい踏みのアルゼンチンを迎えていた。1998年のフランスワールドカップの初戦では手も足も出ずに敗れ、過去6戦は全敗。苦戦が予想された。

日本が勝利したアルゼンチン戦、中盤でチームのバランスを取る長谷部誠日本が勝利したアルゼンチン戦、中盤でチームのバランスを取る長谷部誠  だが、ザックジャパンは堂々たる戦いぶりを見せた。極端に守備を固めた〝弱者の戦術"ではなかった。長谷部誠が中盤で攻守のバランスを取って、本田圭佑、香川真司の2人は中盤でボールを保持し、運び、攻撃を仕掛け、内田篤人、長友佑都の2人はサイドで優位に戦い、攻撃に厚みを加えた。全員が欧州のトップクラブでプレーしていたこともあり、少しも物おじしなかった。

 もちろん、攻撃にギアが入った時のアルゼンチンは日本を苦しめた。とりわけメッシは別格で、数人に囲まれてもボールを奪われない。目を疑うようなビジョンから決定的パスを繰り出し、瞠目のコントロールでゴールに迫り、雷撃のごときミドルシュートも放った。

 しかし、日本も負けていない。前がかりの布陣を組み、各選手がボールを持てることで、一度攻撃が断たれても、献身的かつ積極的な守備で相手に息をつかせず、イニシアチブを取った。決勝点となる先制点も、その流れで生まれた。