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W杯2次予選、日本と戦う
ミャンマー代表の胸に鎮座する「聖獣」の正体

  • いとうやまね●文 text by Ito Yamane
  • photo by Getty Images

スポルティーバ・トリビアvol.9【サッカー日本代表編】

 ビルマ時代は「アジアのライオン」と称されていた、サッカーミャンマー代表。ユニフォームの胸にある、ミャンマーサッカー連盟のエンブレム中央にもライオンが鎮座している。デザイン元になっているミャンマーの国章には、二体が対になって左右外側を向いて配されている。国を守るために睨みをきかせているのだ。ライオンというより「獅子」と言ったほうがおさまりがよい。

聖獣「チンシー」がデザインされている、ミャンマーサッカー連盟のエンブレム聖獣「チンシー」がデザインされている、ミャンマーサッカー連盟のエンブレム もともとヒンズー教由来というが(メソポタミアからという説もある)、ミャンマーに伝わって「チンシー」という名を得ている。日本の狛犬とルーツは同じだ。ミャンマーでは仏教の聖獣だが、宗教を超えて多くの国民に愛されている。チンシーはミャンマーの紙幣にもその姿を見ることができる。

 試合が行なわれるヤンゴンは、英国植民地時代のコロニアル建築、近代的な高層建築、インド人街や中国人街、さまざまな宗教施設が混然一体となった独特の雰囲気がある。なかでもミャンマー仏教の総本山、シュエダゴン・パゴダは遠くからでもその大きさと輝きを確認できる。門前には一対のチンシーが鎮座している。こちらも巨大だ。世界遺産の仏塔に収められている仏舎利(釈迦仏の遺骨等)と法舎利(仏舎利の代用としての経文)を守っているのだ。

 チンシーの逸話を記しておきたい。

 遠い昔、この国の王女がチンシーと結ばれ、男の子を産んだ。ところが王女はチンシーを遠ざけ、会うことすら拒むようになった。怒ったチンシーは大暴れした。やがて成長した王子は何も知らずにチンシーを退治してしまう。意気揚々と母に報告に向かった王子は、そこで初めてチンシーが自分の父親だと知るのである。悲しみと自責の念に苦しんだ王子は、チンシーを丁重に祀り祈りを捧げた。チンシーの魂は癒され、やがて仏塔の守護獣となったのである。

 10日夜の戦いは、ミャンマーにとって総力戦になる。日本代表も胸の「八咫烏」とともにW杯2次予選の初戦を戦う。

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