王朝崩壊。INAC神戸に何が起きていたのか

  • 早草紀子●取材・文・写真 text&photo by Hayakusa Noriko

 11月16日、最後のホームゲーム終了後。観客への挨拶のために歩み出たINAC神戸の髙瀬愛実は、今シーズンを振り返ったところで言葉を詰まらせた。悔し涙の訳はその成績にある。エキサイティングシリーズ()へ進出したものの、最終節を前に最下位に沈んでいるINAC。昨シーズン4冠を達成した常勝軍団の歯車はどこで狂ってしまったのだろうか。
※レギュラーシリーズ18節を10チームで戦い、上位6チームがエキサイティング上位シリーズへ進み10節を戦う。

今シーズンキャプテンを務める髙瀬愛実(中央)は、不甲斐ない成績に悔し涙を流した今シーズンキャプテンを務める髙瀬愛実(中央)は、不甲斐ない成績に悔し涙を流した 厳しい戦いになることは、選手たちも覚悟して臨んだシーズンだった。主力クラスからチ・ソヨン、川澄奈穂美、近賀ゆかり、ゴーベル・ヤネズ(レンタル移籍)が抜け、若手にシフトチェンジしなければならなくなった。なでしこリーグレギュラーシリーズはまさかの5位。上位6チームで戦うエキサイティングシリーズに入っても、地道に勝ち点を拾い、浮上のきっかけを探っていたが、上位チームに連敗を喫した第5節で前田浩二監督が辞任。残り3節となったところで、ミャンマー女子代表監督をしていた熊田喜則監督が後を引き継ぐという波乱が起きた。

 これまでスター選手を抱え、超攻撃型サッカーを展開していたINACは、攻撃力が半減したことに伴い、守備の脆さを露呈することになった。攻め込まれる機会の少なかったチームだっただけに、劣勢の中での守備に慣れていない。結果を出せない日々は選手たちを負の連鎖へ引きずり込んだ。

 シーズンを通して気になったのは若手選手のフィジカルと技術だ。コンタクトプレイで、簡単に体の軸をブラされる場面を1試合で何度も目にする。距離を必要とするパスや、ファーストタッチにも雑さが目立つ。アンダー世代の代表が名を連ね、技術には長(た)けているはずの選手たちだが、今シーズン目立ったのは、止める、蹴る、キープするという基本的な要素の質の低下だった。

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