【五輪代表】44年ぶり快挙の舞台裏「俺たちがひとつになった瞬間」

  • 栗原正夫●文 text by Kurihara Masao
  • photo by JMPA


プレイバック ロンドン五輪/サッカー男子

【ロンドン五輪戦績】
グループリーグ第1戦 日本1-0スペイン
グループリーグ第2戦 日本1-0モロッコ
グループリーグ第3戦 日本0-0ホンジュラス
準々決勝         日本3-0エジプト
準決勝          日本1-3メキシコ
3位決定戦        日本0-2韓国

 
 関塚ジャパンの躍進を予測できた人はどれほどいただろうか。

 五輪開幕前、5月に行なわれたトゥーロン国際での惨敗を受けて、各メディアでは批判的な論調が並んだ。そして7月11日、国内最後の調整となった壮行試合のニュージーランド戦でも、多くの決定機を逸し、ロスタイムに不用意なミスから失点。直前にオーストラリアに快勝(3-0)したなでしこジャパンと比べると、あまりにふがいない結果に、国立競技場ではブーイングまで巻き起こった。五輪へ向けて、期待が高まる気配は一切なかった。

 だが、いざふたを開けてみれば、強豪スペインを下してグループリーグを首位通過。準々決勝ではエジプトに3-0と完勝し、1968年メキシコ五輪以来、44年ぶりのベスト4進出という快挙を成し遂げた。惜しくも準決勝ではメキシコに敗れ、3位決定戦では宿敵・韓国に屈したものの、前評判を考えれば、大躍進である。

 果たして驚異的な飛躍の要因はどこにあったのか。世界仕様のサッカーに戦術転換できたことも大きかったが、ピッチ上では確認できない舞台裏に、見逃せない要素が隠されていた。それは、過去の五輪代表にはなかった、チームの"一体感"や"雰囲気のよさ"だ。形のない、漠然としたものに過ぎないが、このチームのそれは、傍目(はため)に見ていても強烈に伝わってきた。

 大会直前、オーバーエイジ枠選手としてチームに合流した徳永悠平と吉田麻也のふたりは、その"雰囲気"を実際に肌で味わって感嘆した。特に徳永は、8年前のアテネ大会に出場して苦しんだ。小野伸二らオーバーエイジの選手が、チームにうまくフィットしなかったからだ。ゆえに、「最初はオーバーエイジの難しさを感じて、(参加することに)迷いもあった」という。しかし今回、そうした心配は杞憂(きゆう)に終わった。だから余計に、関塚ジャパンのムードのよさを強調する。

「(オーバーエイジは)プレッシャーのかかるポジションで、難しさはもちろんある。(最初は)自分でいいのかという気持ちもあったし、もっとふさわしい選手がいるんじゃないかという思いもあった。でもこのチームでは、みんなが(自分を)いちプレイヤーとして見てくれ、遠慮などもなかった。チームにはすんなりと入れたし、今になってみれば、このチームの一員として戦えたことに満足している。(オーバーエイジで加入する)決断をしてよかったと思う」

 そして、徳永はこう続ける。

「このチームは本当に感情を表に出す選手が多い。本気でメダルを獲りたいという気持ちを前面に出して、いい雰囲気で戦っていたと思う。ロッカールームでも、自分の気持ちを素直にぶつける選手が多く、みんながチームをよくしようとしていた。自分たちのころは(互いに)遠慮していた部分が正直あったと思うし、その辺は違うな、と感じた。そういう気持ちだったからこそ、みんながひとつになれ、結果につながったのだと思う」

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