【なでしこ】取材歴18年。女性フォトグラファーが振り返る日本女子サッカーの歴史 (2ページ目)

  • 早草紀子●取材・文 text by Hayakusa Noriko photo by Hayakusa Noriko/JMPA

 4位入賞した2008年北京五輪後、それまで一緒に走り続けてきた選手たちがスパイクを脱いだとき、私も一緒にカメラを置くのがいいのではないかと思った。けれど、そのときも、同じことを思ったのだった。

 この先に、4位の先に何があるんだろうか、と。そして決意した。それを見てみよう。ここからの4年間、どんな辺鄙なところでも、どんな小さな大会でも、すべてのなでしこたちの姿を残そう! ここまで付き合ったんだ。あと4年延長したところでどうってことないだろう。ならば、とことん付き合ってみようじゃないか!

 私が撮り続けた18年で、なでしこジャパンの面々はどんどん変わっていった。けれど、その本質はしっかりと今に受け継がれている。

 苦しみ抜いた1年を経て、ロンドンオリンピックでも、まだ苦しまなければならなかったなでしこジャパン。本当にがけっぷちが性に合っているようだ。いつもギリギリのところで、必ず大変身を遂げる。笑うこと、ひとつになること、相手を想うこと......。まさかがけっぷちの伝統まで先輩なでしこから受け継いでいるとは思わなかった。

 ロンドン五輪の表彰式はカメラマンでごった返す群れの中でもまれることになったが、何とか最前列をキープすることに成功した。群れの中から、選手たちが笑って登場してきたのを見て、胸をなでおろした。表情は複雑そうだったが、少なくとも下を向いている選手はいなかった。もし選手たちの表情が暗ければ大声でこう言ってやろうと思っていた。

「世界の2位だよ! 顔上げて!」

 しかし、集合写真の準備が整ってシャッターを切ろうとした瞬間、宮間あやが叫んだ。

「世界の2位だぞー!」
「イェーイ(全員)!!」

 間髪いれずに大野忍が叫ぶ。

「銀メダルで文句あるかー!」
「イェーイ(全員)!!」

 よかった......みんな胸を張っている。この瞬間を写真に残せたことを感謝した。全員の顔を確認した私はカメラから顔を外していつものようにサインを出した。

「OK!」

 ロンドンでなでしこたちと交わした最後の言葉だった。

 2012年夏、私がロンドンオリンピックで出会ったのは、泣いて、笑って、強くなったなでしこジャパン――日本サッカー史上初となる銀メダルを手に、今も昔も変わらない光を携えて、泣きながら笑うなでしこたちだった。

『がけっぷち上等! なでしこは泣いて笑って強くなる』より一部抜粋
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著者プロフィール
早草紀子(はやくさのりこ)
兵庫県神戸市生まれ。Jリーグ元年からサッカーを撮り始め、
94年からフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿。
日本サッカー協会の女子サッカーコラムを6年間担当し、
現在も女子サッカー取材のパイオニアとして精力的に活動をしている。

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