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巨人・小林誠司が若手の手本として歩む36歳の現在地 「どんな場合でも、自分のやるべきことは必ずある」 (2ページ目)

  • 長谷川晶一●文 text by Hasegawa Shoichi

 そして小林は、「僕はサードベース付近にミットを置いてからマウンドに向かいました」と続けた。「もうひとりの小林さんが見ていたからですか?」と問うと、「そうです」と静かに言った。

【全身が震えるほど緊張した】

 なかなか出場機会に恵まれない日々が続くなか、ついにチャンスが訪れた。5月24日に一軍昇格、6月13日のオリックス・バファローズ戦で今季初出場。そして6月20日、埼玉西武ライオンズとの交流戦で、小林は今季初めてスタメン起用された。この日を振り返ってもらうと、彼の口元から真っ白い歯がこぼれた。

「僕は普段から、試合前にはめちゃくちゃ緊張して、震えたりするんです。何年経っても、毎試合そうです。でも、あの日は、それが特にひどかったんです(笑)」

 試合前のキャッチボールの段階からすでに「異変」が現れていたという。

「あの日は、当たり前のことが当たり前にできないんです。キャッチボールでは、全然思ったところに投げられない。いや、そもそも感覚が違うんです、いつもと。それぐらい緊張していたし、実際に震えていました」

 そして、率直な思いを口にした。

「この日の気持ちは、『よし行くぞ』という思いと、『もしもこのチャンスを逃したら......』という不安が半々ぐらい......、いや、正直、不安の方が大きかったですね。でも、試合が始まるまではいろいろなことを考えて不安になるけど、試合が始まってしまえば、これまで自分のやってきたことを信じるしかない。『あとはグラウンドで思いっきりプレーしよう』という思いだけでした」

 この日、小林の名前がコールされると、東京ドームが揺れるような大歓声が起きた。「この時の心境は?」と尋ねると、心からの笑顔で小林は言った。

「本当にうれしかった。『ここまで頑張ってきてよかった』と思いました。これから先も、どんなところでも、どんな役割でも、一生懸命、全力でプレーする。そのスタンスはずっと変わらずにやっていきたい。そんな思いが、あらためて強くなりましたね」

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