ヤクルト「地獄の松山キャンプ」を若手野手陣が完走 限界突破から見えてきた世界とは?
ヤクルト秋季キャンプ密着レポート(後編)
ヤクルト秋季キャンプ(愛媛・松山市)での野手練習は、初日から1日1500スイング以上など壮絶を極めた。「もう無理......」という弱音を吐く選手もいたが、徐々に免疫力をつけ、堂々とキャンプを完走したのだった。
今回の取材で思い出したのが、2017年と2018年の秋季キャンプだった。今も"地獄"と語り継がれ、当時のメンバーだった松本直樹は、「練習が終わりホテルの部屋にたどり着くと、『今日も生きて帰れた!』という毎日でした(笑)」と振り返った。
宮出隆自二軍打撃コーチは、当時のキャンプも打撃コーチとして指導。「振る量に関しては、当時と遜色ないですね」と語った。
「1日1500スイングとか、練習内容や意図はそこまで変わっていないと思います。人間って限界が来た時に、『もうダメだ』と逃げ出す選手、もう一回頑張れるヤツなど、本当の自分が出ます。今回、振る量を増やしたのは、そういうところを見たいという大松(尚逸)コーチの思いがあったんじゃないでしょうか」
そして宮出コーチは、「僕は二軍で今の選手たちを何年も見ていますが、バットを振ってこんなに苦しんでいる姿を見るのは初めてです」と笑顔で語った。
バットを振り込む選手たちを見つめるヤクルト・髙津臣吾監督 photo by Sankei Visualこの記事に関連する写真を見る
【限界を超えて得た新たな発見】
多くの選手が「第1クールはどうなるかと思った」と話したが、内面的、技術的にいろいろな発見があったという。
並木秀尊は「終わりが見えなくて、不貞腐れる時もありました」と打ち明けた。今シーズンはケガの影響もあり33試合の出場にとどまったが、球界トップクラスのスピードは相手の脅威となった。
「感情の起伏があると逆に疲れると思ったので、走るメニューでも無心ではないですけど、あえて淡々とこなす感じでやっていました。そして自分なりの限界まで行った時に、性格だけじゃなく、打つ時に自らボールを覗きにいってしまうといった癖にも気づけました。体で覚えるじゃないですけど、体で理解できたこともあって、こういう昭和のような練習も大事なんだと(笑)」
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著者プロフィール
島村誠也 (しまむら・せいや)
1967年生まれ。21歳の時に『週刊プレイボーイ』編集部のフリーライター見習いに。1991年に映画『フィールド・オブ・ドリームス』の舞台となった野球場を取材。原作者W・P・キンセラ氏(故人)の言葉「野球場のホームプレートに立ってファウルラインを永遠に延長していくと、世界のほとんどが入ってしまう。そんな神話的レベルの虚構の世界を見せてくれるのが野球なんだ」は宝物となった。以降、2000年代前半まで、メジャーのスプリングトレーニング、公式戦、オールスター、ワールドシリーズを現地取材。現在は『web Sportiva』でヤクルトを中心に取材を続けている。