ベイスターズ退団から3年、乙坂智の今 「仲間と最高の瞬間のために、自分のできることを一生懸命やる。今年が野球人生のベストシーズン」
乙坂智インタビュー(前編)
2021年限りでDeNAを退団した乙坂智は、翌年からメキシコ、アメリカ、ベネズエラと海外でプレーしている。今季はメキシカンリーグの名門レオネス・デ・ユカタンに加入し、1番打者として牽引。多くの日本人選手と異なるキャリアを歩む乙坂は、異国でどんなことを感じているのか。本拠地のメキシコ南部メリダで直撃した。
今季からメキシカンリーグの名門レオネス・デ・ユカタンでプレーする乙坂智/写真は球団提供この記事に関連する写真を見る
【1試合に対する思いが違う】
── 海外でプレーして3年目になります。そもそも海外で野球をやろうとなったきっかけは?
乙坂 初めてメキシコに来たのは2017年、ウインターリーグでプレーした時です。あれがすべてのきっかけでしたね。
── その頃から、海外で野球をやりたいと?
乙坂 最初はブレークスルーしたいという感じでした。
── 当時はDeNAで外野のレギュラーを争っていました。野球の部分では、日本とメキシコでどんな違いを感じましたか。
乙坂 野球の部分より、人と関わっているうちに感じることが多かったですね。精神的なタフさとか、よく使われる言葉ですがハングリーさとか。どういった心持ちで野球をやっているかに興味があったので。
── どう感じましたか。
乙坂 ウインターリーグは短期決戦で、プレーオフに進めばその分の給料も出るし、逆に進めなければ給料も発生しません。メキシコでプレーしている選手からすると、死活問題じゃないですか。
── そうですね。逆に成績を残せなければ、1試合でクビも珍しくない。
乙坂 そうだし、お金があればそれだけ安全な生活を送れるわけです。
── メキシコは治安がよくない場所もあり、「お金で安全を買う」という表現もされます。
乙坂 こっちで暮らしていて、そういうメンタリティーはすごく感じます。年俸も日本だとふつうに12カ月分割でもらえますが、こっちの選手はプレーした分だけ。でも、出れば出た分だけもらえる。だから、1試合に対する思いは全然違うなって感じました。
── 日本に帰ったあと、心の持ちようは大きく変わりましたか。
乙坂 正直、そこまで変われなかったんです。日本の常識にまた戻ってしまって。自分のなかでは「ウインターリーグに行っていろいろ見て、変わったぞ」と思っていたけど、いま振り返れば、そこまで深くいってなかったのかな。
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著者プロフィール
中島大輔 (なかじま・だいすけ)
2005年から英国で4年間、当時セルティックの中村俊輔を密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『山本由伸 常識を変える投球術』。『中南米野球はなぜ強いのか』で第28回ミズノスポーツライター賞の優秀賞。内海哲也『プライド 史上4人目、連続最多勝左腕のマウンド人生』では構成を担当。