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サッカー日本代表が最速でW杯出場権を獲得しても素直に喜べない 「ぬるま湯」がもたらす大問題

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki

連載第15回
杉山茂樹の「看過できない」

 4-0で勝利したインドネシア戦後の会見で、地元の女性記者に「インドネシアにW杯本大会を戦う力はあるか」と尋ねられた森保一監督は、「イエス」と答えた。筆者はリップサービスと推測。その試合の原稿に「インドネシアにその力はない」と記している。

 だが、インドネシアは続くサウジアラビア戦に2-0で勝利を収め、勝ち点6でグループCの3位(プレーオフ圏内)に浮上。本大会を戦う力はともかく、出場する可能性は膨らんでいる。日本にホームで0-4のスコアで大敗したチームに、である。

 日本にアウェー0-7、ホーム1-3、合計スコア1-10で連敗した中国も、順位こそ最下位(6位)ながら勝ち点は6。インドネシアと並び出場の可能性はまだ十分に残されている。

 これでいいのかW杯予選は、と言いたくなる。

「成長した」と言われるインドネシアを一蹴した日本代表 photo by Sano Miki「成長した」と言われるインドネシアを一蹴した日本代表 photo by Sano Miki 2026年W杯アジア3次予選は全10試合のうち6試合を終了。ご承知のように日本が5勝1分(勝ち点16)でグループCの首位を独走する。2位オーストラリア(1勝4分1敗)との勝ち点差は9。自動出場圏外(プレーオフに回る)となる3位インドネシアとの差は10だ。「W杯予選は何が起こるかわからない」とはよく言われる台詞だが、少なくとも日本に今後、何か大きな問題が起きることはないだろう。

 本大会出場は秒読み段階を迎えている。来年3月20日に埼玉スタジアムで行なわれるバーレーン戦に勝利すれば、開催国を除いて日本が世界最速でW杯本大会出場を決めることになる。だが、大喜びする気持ちはまるで湧いてこない。歯ごたえのない試合が続けば、エンタメ性は低下する。

 本大会出場国が32から48に増え、それにともないアジア枠が4.5から8.5にほぼ倍増することが決まった段階で、想定された事態だった。1994年アメリカW杯予選はアジア枠2。1998年フランスW杯予選は3.5。2002年日韓共催W杯は開催国特権で予選免除。2006年ドイツW杯から2018年ロシアW杯までの4大会は4.5枠だった。

 4.5という設定でも、日本の予選落ちの可能性は限りなく低かった。「ドーハの悲劇」「ジョホールバルの歓喜」を振り返り、出場枠が狭い時代を懐かしんだものだが、8.5に拡大されたいまとなっては、4.5枠の時代さえいいものに見えてくる。

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著者プロフィール

  • 杉山茂樹

    杉山茂樹 (すぎやましげき)

    スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。

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