江川卓の作新学院に4戦全敗 「勝つためには何でもする」と銚子商が「打倒・江川」に燃えた雨中決戦 (2ページ目)

  • 松永多佳倫●文 text by Matsunaga Takarin

 ちなみに、青野は"江川キラー"として全国のその名を轟かせていた。この試合でも5打数3安打と大当たりで、通算でも14打数8安打。青野が江川との対戦を振り返る。

「不思議と相性がよかったですね。なぜ打てたかはわからないです。ただ、気持ちで負けたことはありませんでした。江川はテイクバックが小さいから、余計に速く感じました。バッターってピッチャーのテイクバックでタイミングをとりますから。これまで多くの投手と対戦してきましたが、江川よりも速いピッチャーは見たことがありません」

 この絶好の得点機に、打席には7番の磯村政司が入った。

「監督に呼ばれたので、自ら『スクイズですよね?』って聞くと、『バカヤロー! ここは絶対にスクイズじゃない。強気でいくぞ!』って言うんです。なんであの時、スクイズのサインじゃなかったのか聞いてみたかったですね」

 結局、磯村はインコースの真っすぐを打って、どん詰まりのサードフライに打ちとられた。

 銚子商の斉藤一之は「猛練習は技術の鍛錬と精神的修養をするもの」だと信じてやまないスパルタ監督だった。それでも、ただ闇雲に根性野球を標榜するのではなく、今でいう先乗りスコアラーを2、3人送り込み、対戦相手を分析する緻密さも兼ね備えていた。

 試合当日は、対戦相手のデータを書いた黒板ほどの大きさの模造紙をベンチに貼るなど、どこよりも早くデータを取り入れていた。ほかにも、エンドランのサインが出ても「ランナーのスタートがよかったらバッターは振るな」と、高度なプレーも平気で要求した。勝つためには何でもする。これが斉藤の流儀である。

「柳川商はバスター打法で江川を追い詰めたが、あれでは勝てん。結局、小細工は通用せん。力には力だ!」

 江川を力で倒す──斉藤にとって、何よりものモチベーションになっていた。

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