岡田彰布はコーチのひと言に優勝したい気持ちは消え失せた。「もうあんた、パチョレックとやったらええやん」 (3ページ目)

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki
  • photo by Sankei Visual

「結局みんな、有頂天になってたよな。オフにマイク(仲田幸司)とメシ食うてる時にそう思ったんよ。マイクはあの年、初めて2ケタ勝って、14勝した。それで『僕は14勝ですよ』って偉そうに言うから、怒ったんよ。『周りからエース、エース、言われて、勘違いしてんちゃうか? たかが1年、14勝しただけで、有頂天になっとんちゃうか?』って」

 実績がない選手が、実力以上の結果を出すことは往々にしてある。周囲から称賛されて有頂天になり、力があると勘違いしてオフの過ごし方を誤り、次の年は結果を出せなくなる。新人で活躍した選手の"2年目のジンクス"が典型例だが、プロで長くやってきた岡田が、仲田の言動と態度から「来年」を予測するのは容易いことだった。

「ただ、もしもね、それでも優勝してたら、みんな自信つけて次の年に上昇できたかもわからんけど、最後の10月に2勝7敗ということは力不足やんか。力負けしたわけやから。オフに『2位で惜しかった』ってよう言われたけど、『これでまた当分、優勝できへん』って言うたったよ。勘違いしないで、もうちょっと謙虚にやっていたら勝ったかもわからんけどな」

 93年、阪神は4位に終わった。当時の岡田が「当分の間」と予想したとおり、2003年まで10年間、阪神は優勝できなかった。01年まで9年連続Bクラスで、そのうち最下位が6回。92年は"暗黒の時代"に1年だけ光り輝いたシーズン、とも言われるが、輝きが続かなかった理由は、阪神監督して優勝経験もある岡田が語ったとおりなのだろう。

「チームって、パッと何か、みんながええように回るときってあるんよ。『なんで勝ってる?』 って不思議になるぐらい。だからそこで勘違いして、有頂天になってしまうのが一番怖いよな。計算できる、実力がある選手ばっかりやったらええけど、そんなチームはめったにないんやから」

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 1リーグ時代を含めて、阪神は合計25回、2位になっている。そのなかで92年の2位は、史上最高のインパクトを残し、じつは史上最強だったのではないか......と仮説を立てて取材に臨んだ。当時の選手だった野球人、わずか7名ではあるが証言を得て、「史上"最驚"」がふさわしい、と考え直した。

 30年が経って、当時の中村勝広監督を筆頭に、当時コーチですでに鬼籍に入られた方もいる。チームの1シーズンを掘り起こすために、指導者への取材も行ないたかったが、今回は断念した。また、岡田氏をはじめ複数の野球人に進められた仲田幸司氏への取材など、諸般の事情で記事にできなかった選手たちもいる。なんとか、続編として実現できれば、と考えている。

(=敬称略)

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