ソフトバンクの最終兵器・田中正義に覚醒の予感。「日本球界の宝」と言われた男が6年目にしていよいよ本格化 (3ページ目)

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • photo by Koike Yoshihiro

 高校時代は外野手として鳴らしていた彼を、大学に入学するや投手として一から指導した佐藤康弘コーチが、以前こんなことを言っていた。

「本当のことを言うと、(田中)正義はまだピッチャーとしての歴史が始まったばかりのヤツなんです。たまたまゲームでの実績が先行してしまって、『すごい!』ってなりましたけど、僕から見れば、まだまだ素人に毛が生えたぐらいの段階で。走る姿はオリンピック選手かと思うほどカッコいいですけど、下半身や体幹はまだまだ弱い。そこは本人もわかっていて、一生懸命トレーニングしていますけど、指導する者としては『このままプロに送り込んで大丈夫なのか......』って、一抹の不安はあります」

 じつは、創価大の岸雅司監督(当時)も同じような見立てをしていた。

「あれだけのボールを見せられたら、『全日本の候補に......』ってなるけど、僕は絶対に行かせたくないというか、まだ行かせたくない。そりゃ、学校としても大きな名誉だし、経験という意味では行かせてあげたいけど、まだアマチュアのトップレベルで投げられるだけの体の強さがないんです。田中正義というピッチャーは、創価大のみならず、学生球界、いや日本球界の宝だと思うんですよね。だから、壊さないように育てていかなきゃならない。プレッシャーは感じています。でも、そのぐらいの器ですよ、正義は」

 それからもう7、8年の歳月が過ぎた。

 そして今、田中が隠し持っていた膨大な能力を、少しずつ、少しずつ、見せ始めてきた。パ・リーグの強打者たちを抑えるのは簡単ではないが、経験という武器を身につけ、ソフトバンク投手陣の一角に、自分の仕事場を築いていくのではないか。

 40年近い学生野球の指導生活のなかで、創価大学の全国有数の強豪に導き上げ、プロ球界に何人もの逸材を送り出した岸監督に「日本球界の宝」とまで言わせた男が、ようやく本格化しようとしている。

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