「くよくよしている場合ではない」小林誠司が正捕手返り咲きへやるべきこと (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Koike Yoshihiro

 2015年からチームでもっともマスクを被り続けた捕手がいなくなる。大打撃にもかかわらず、チームは快進撃を続けた。

 捕手として屈指の打撃力を誇る大城卓三がメイン捕手に。ベテランで高い守備力を持つ炭谷銀仁朗が脇を固め、第三の捕手には貴重なムードメーカーであり、少ない出番で3割超の打率を記録した新鋭の岸田行倫もいた。

 当然、小林としては面白くなかったに違いない。だが、当時の心境を聞くと小林は「うーん」とうなったあと、こんな思いを吐露した。

「この世界にはいい選手がたくさんいるので......。ケガをした以上はしっかり治して、また頑張るしかないですし、ケガをする前以上にいろんなものを跳ねのける力がないと、また同じ場所には戻ってこられないと思っています」

 左腕の骨折が癒えた9月18日には一軍に復帰したものの、打撃面で結果を残せず、わずか1カ月で二軍へ降格。その後、前述のどおり二度目の骨折で小林の2020年シーズンは終わっている。

 10月30日のリーグ優勝の瞬間は、東京ドームのベンチ裏で迎えた。小林は出場選手登録をされておらず、ベンチ内には入れなかったのだ。胴上げの輪には加わったが、複雑な感情が渦巻いたのは想像に難くない。当時のことを語る小林は、いつもの爽やかな表情が少し引きつったように見えた。

「去年は何もできなかったので......。でも、その場に呼んでいただいたのはうれしかったですし、やっぱり『一緒に戦いたかった』という気持ちはすごく湧いてきましたね」

 出直しとなる2021年。小林のこれまで積み上げてきたキャリアがなくなるわけではなく、リーグ屈指のスローイング技術は健在だ。だが、ライバルは昨季のセ・リーグベストナイン捕手である大城を筆頭に、層が厚い。下手をすれば、故障をしなくても昨年と同様の出場機会に終わる可能性だってある。

 正捕手返り咲きの最大のネックは、打撃にある。入団以来、小林の年度別打率を見てみよう。

2014年 .255(121打席)
2015年 .226(204打席)
2016年 .204(458打席)
2017年 .206(443打席)
2018年 .219(313打席)
2019年 .244(236打席)
2020年 .056(21打席)

 現代野球は打高投低の傾向にあり、ましてや投手が打席に入るセ・リーグでは捕手の打撃力が勝敗を大きく左右する。それだけに小林の通算打率.217は、高い守備力を差し引いても物足りなく映る。

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