首位打者争い中の落合博満に八重樫幸雄はカマをかけた「何を投げてほしい?」

  • 長谷川晶一●取材・文 text by Hasegawa Shoichi

――やっぱり、三冠王を獲得する打者はそういう怖さがあるんですね。

八重樫 だから、ランナーがいない場面での落合は「ホームランじゃなければいいや」という意識で投げられるから、かなり精神的負担は軽くなったよ。ヘンな話、「ヒットならいいや」と考えて投げると、ピッチャーも思い切って投げられるから。逆にランナーがいる時の落合は、体全体から「集中してます」っていうオーラが出ていた。ああなると、キャッチャーとしてはお手上げ。落合が首位打者争いをしていた時も、そんなことを強く感じたよ。

【落合にカマかけて、性格を見極めた】

――1991(平成3)年、古田敦也さんと首位打者争いをしていた時のことですか?

八重樫 いや、その前に巨人の篠塚(利夫/現・和典)と首位打者争いをしたのはいつだったかな......1987年か。あの年、篠塚と正田(耕三・広島)が首位打者になるんだけど、落合も僅差だったんだよね。

中日時代を含め、4球団で2371安打510本塁打の成績を残した落合 photo by Sankei Visual中日時代を含め、4球団で2371安打510本塁打の成績を残した落合 photo by Sankei Visual――調べてみると、篠塚さん、正田さんが打率.333で同率1位。そして、落合さんは打率.331で3位ですね。

八重樫 そうそう、2厘差だったよね。シーズン終盤、中日はあと1、2試合残っていて、僕らは中日との最終戦だった。この試合で落合が打席に入った時に「オチ、あと何本で首位になるんだ?」って尋ねたんですよ。そうしたら、「あと2本で逆転します」って言うから、「じゃあ、何を投げてほしい?」って聞いたんだよね。そうしたら、落合は「緩いボールがいいです」って言ったんですよ。

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