熟男じゃなくて熟夫・川﨑宗則の再出発「息子にはこれからの俺を見てほしい」 (2ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Sportiva

 そもそも川﨑が言う「ジュクオ」って、いったい何だ? さっそく、会見直後の川﨑にぶつけてみた。

「ああ、あれですか。あの言葉は(会見で)訊かれて、その場で咄嗟に出たんですよ。ジュクオなんだからな、今のおれはってことです。"熟女"にちなんでるから"熟男"だと思ったでしょ。違うんですよ、"熟男"じゃない、"熟夫"です。『男』じゃなくて『夫』のほうがいい。わかります?」

 いや、わからない(苦笑)。

「だから『男』は好き勝手に何でもできるし自由奔放で何をしてもいい。好きな色に髪を染めてもいいし、好きなモノを買えばいい。でも『夫』は違うんですよ。買い物するときにはワンチャン、電話をしないといけない。だって夫には奥さんがいて、家族がいて、子どもがいれば親父としてのつらさもあったりする。男には誰でもなれるけど、夫には誰もがなれるわけじゃない。だからおれはもう、イタリアのちょい悪オヤジじゃないんです。つまり、熟男じゃなくて熟夫なんだよ、ハハハ」

 そう笑い飛ばした川﨑は、若い選手たちがもっと上を目指して最後のチャンスにしがみつく独立リーグという舞台で、"熟夫"に相応しい大人のプレー、立ち居振る舞いを見せたいと、そう言っているのだ。

 ならば川﨑にとっての大人とは――彼に初めて"大人"を感じさせた存在、それは川﨑の父、正継さんだ。鹿児島で電気工事の会社を営んでいた父の後ろをついて、宗則少年はよく工事現場へと足を運んでいた。

「電柱立てたり穴を掘ったり、電気工事の手伝いに行ってました。お父ちゃんは作業着を着て、汗かいて、お母ちゃんとおれに『あれ取って』『これ運んで』って言うから、『はいよ』って感じです。子どもだからヘマもするんだけど、怒られたことがない。せっかく修理したところをおれが壊しても、淡々と直してくれました。怒らない親父でしたね。

 ウチは商売柄、お客さんの多い家で、いつも大人がいっぱいいてね。お父ちゃんはいつも焼酎呑んで酔っ払ってたんだけど、おれは酔っ払ったお父ちゃんと一緒にメシを食うのが楽しかった。お父ちゃんはお酒を呑むと、機嫌がよかったんです。だから飲み会はいいこと。もちろん逸将(いっしょう)にとってもいいことだから、今もおれの仲間と飲み会をするとき、逸将を連れていきます。逸将も飲み会があると聞きつけると、『パパ、飲み会行かないの? 行けないの? 行ってよ、行こうよ』って、いつの間にか自分も行くことになってる(笑)」

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