ドラゴンズの名手は言った「勝つためじゃない、かっこいいからです」 (2ページ目)
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「水原さんにはバックトスのほかにもね、『間に合わんとこへ投げるな』って叱られたこともある......。そんなもん、間に合わんかどうかは、投げてみな、わからん。相手がその前に転ぶかもわからん......。まぁ、屁理屈や〜ねぇ。なっはっはっは」
ぶわっと吹き出して、つられて僕も爆笑してしまう。高木さんはツボに刺さってしまった様子で、腹を抱え苦しそうにしている。ここまで笑い崩れる野球人は初めてだ。
「そういう図々しさっていうのは、けっこう持ってたんで。野球人生のなかで、それはずいぶん役に立ちましたね。表向きは、おとなしそうで、地味で、なんて言われたけども、内心は派手な図々しさを持ってましたし、人一倍、負けず嫌いでもあったし。だから、叱られてもすぐバックトスして」
図々しさなくして、高木さんのバックトスは完成しなかった──。それにしても、すぐにまたバックトスを敢行して、監督から何も注意されなかったのだろうか。
「次の日からやって、何のおとがめもなかったね、水原さんのときは。まぁ、大監督に対して若造がようやったと思う。試合中に帰った後だって、杉浦さんに何も言われなかった。板東英二さんがね、必死で僕のこと探したっていうけども、ほっほっほ。だから、大らかだったわね、あの時代は。そういうこともあって、自分の持ち味にできたんです」
高木さんはそう言うと椅子の背もたれに左手をかけ、やや半身の構えで座り直した。この間隙に、なぜバックトスにこだわったのか考える。「自分の持ち味」と高木さんは言ったけれど、もともとは勝つために、より多くダブルプレーを取りたいという願望があったはず。
「いや、勝つためじゃない。かっこいいからです。やっぱり、プロですから、お客さんが『おっ』というプレーをやらないとね。それで僕はあの、あんまり喜怒哀楽を出しませんでしたから。何やっても無表情で。それはもう、親父と岐阜商の監督の指導でね。グラウンドで歯を見せるなとか、昔気質(むかしかたぎ)の教えを受けましたから、プロに入っても染みついてたんです」
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