王貞治の記録達成時も赤裸々に。八重樫幸雄がヤクルト歴代エースを語る (2ページ目)

  • 長谷川晶一●取材・文 text by Hasegawa Shoichi

【『がんばれ!!タブチくん!!』のイメージ通りの安田猛】

――1970年代は「右のエース」が松岡さんなら、「左のエース」は安田猛さんでした。安田さんはどんなピッチャーでしたか?

八重樫 安田さんの場合はノーサインで受けることが多かったです。安田さんのカーブはチェンジアップのように曲がるから慣れるまで大変だったけど、それ以外は問題なくキャッチングできたけどね。

――安田さんといえば、マンガ『がんばれ!!タブチくん!!』のイメージが強く、どうしても「魔球の使い手」というイメージがあるんですが、実際はどうでしたか?

八重樫 マンガのような魔球ということはないけど、今も言ったみたいにカーブがチェンジアップ気味に曲がったり、今でいうシンカーを投げたり、バッターは大変だったと思いますよ。特にシンカー。縦に落ちるんだけど、バッターの前で一瞬、止まるような感じなんです。あのボールは王(貞治)さんもすごく戸惑っていたみたい。それに、何よりもすごかったのがストレート。ものすごくキレがあるんです。とくに、右バッターにはカット気味に、手元でピュッとインコースに入ってくる。たぶん、指の関係でそうなるんだと思うけど、独特のストレートだったな。

――じゃあ、やっぱり「魔球使い」のイメージは正しいんですね(笑)。

八重樫 安田さんは、バッターのタイミングを外すのがすごく得意だし、好きなんですよ。キャッチャーからの返球を受け取ってすぐに投げたり、踏み出す右足をグーっと我慢して、普段よりもちょっと長めにボールを持ってみたり、とにかくバッターのタイミングを外そうとする。王さんが一本足に入るタイミングで投げたりもしたけど、そういうときの王さんは全然振らなかったな(笑)。

――安田さんのようなピッチャーは、キャッチャーからしたらバッテリーを組みやすいんですか? それとも難しいんですか?

八重樫 安田さんとバッテリーを組むのは、すごくラクでしたよ。だって、ノーサインなんだから(笑)。でも、それは決して「ストレートが遅いからノーサインでも捕れる」という意味じゃないよ。安田さんのようなキレのあるボールは、たとえ130キロ台でも、150キロに感じられるスピードだったから。ただ、テンポがいいから受けていて楽しかったな。たまにサインを出すこともあったんだけど、それは全部、ウソのサイン(笑)。

――えっ、どういうことですか?

八重樫 ランナーが出たときに、走者をけん制するためにサインを出すふりはするけど、それはあくまでもポーズだけ(笑)。こっちから出すサインは、けん制のサインだけだったね。

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