楽天・藤田一也は攻守の切り札。
CS制覇へ「男前の監督を男にする」

  • 田口元義●文 text by Taguchi Genki
  • photo by Koike Yoshihiro

 ソフトバンクとのクライマックスシリーズ(CS)ファーストステージを目前に控えた、ある日の囲み取材でのこと。報道陣から「今年、感動した試合はあるか?」と尋ねられた楽天・平石洋介監督は、淀みなく即答した。

「一也のホームランかな」

CSに向けて静かに闘志を燃やす楽天・藤田一也CSに向けて静かに闘志を燃やす楽天・藤田一也 それはCS出場権をかけた3位争いが大詰めを迎えていた、921日の西武戦での8回裏だった。0-1とスコアこそ僅差だったが、相手投手がパ・リーグ最多登板記録を更新した"鉄腕"平井克典であることを考えれば、敗色濃厚のムードが漂っても不思議ではなかった。

 その重い空気を一掃したのが、先頭で代打に送られたベテランの藤田一也だった。

 カウント0-1からの2球目、内角の球に体が反応する。鋭く腰を回転しながらバットを振り抜くと、打球はライトポール際へと吸い込まれた。

 藤田の一発が呼び水となり、楽天打線は西武不動のセットアッパー猛打を浴びせ、一挙6得点。窮地から鮮やかな逆転勝利でCS進出に一歩近づいたのだった。

 この価値ある一発、平石監督が感慨深げに振り返る。

「今年、苦労していることを知っていたし、私情を挟んだらダメなんでしょうけど......ホームランがあまり出ない一也が打ってくれてね。物事が予定どおり進んだら感動ってしないじゃないですか。想像をはるかに超えるからこそ感動するわけで。たしかに、若い力も必要ですけど、それだけではチームは成り立たない。一也のようなベテランがやってくれるからこそ、こみ上げてくるものがありますね」

 じつはこの時、藤田は打撃に迷いがあった。試合前の練習では、グリップの位置やタイミングの取り方を変えるなど試行錯誤を繰り返し、「フォームを変えましたか?」と聞くと、「今、迷子なんですよ。場内アナウンスで、『僕のバッティングを知りませんか』と聞いてほしいです」とジョークを飛ばしていた。

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